ろ過器の仕組みと役割
貯水池の水、川水、井戸水などから不純物を除去し、清澄な飲料水や工業用水にするために使われる装置が「ろ過器」です。身近な場面でも、ろ過器が活躍するシーンは多く、我々の生活に欠かせません。
この記事では「ろ過」の基本を紹介してから、ろ過器の仕組みや役割について紹介していきます。
目次
ろ過とは?
ろ過は、固体(汚濁物質・異物)を含んだ液体を、多孔性の「ろ材(ろ過材)」で濾し取り、固体を液体から分離することです。
ろ過器とは?
ろ過器は、ろ過をおこなうための装置です。原水をろ過するためのろ材を搭載しており、「ろ過装置」と呼ばれることもあります。
ろ過器が使われるシーン
ろ過における最大の特徴は、シンプルな構造で液体中に含まれている不純物や汚染物質などを除去できるところです。しかも化学的処理や熱交換処理を必要としないため、環境負荷が極めて小さいのも特徴と言えます。
近年は高性能なろ材が開発されたことで、より微細でより多様な物質を除去できるようになりました。鉄鋼、化学、食品、医薬品、繊維、紙・パルプ、ガラス、セラミックス、医療、水処理など非常に広範な産業分野のろ過用途で利用されています。
ろ過器の代表的な利用例としては、浄水処理や下水処理などが挙げられます。浄水処理というのは水道水を作る過程で行われる処理です。水道水の元となるダムの水や地下水などから、汚れを取り除きます。下水処理は、家庭や企業で使用した水に対して行われる処理のことです。
日常生活の中で使用する水道の水は、もともとは川の水や雨水などです。それがダムに貯まり、浄水場に送られてくることにより、飲めるくらいのきれいな状態に処理されます。その際に、小さな濁りを取るために必要な処理がろ過です。
またプールの水は常に循環しており、ろ過されて不純物や汚れなどは取り除かれる仕組みです。水族館にある水槽の水もろ過し、生き物の生活に適した水温に調節してから使用しています。
この他にも食品や医薬品、紙パルプ、電池など非常に幅広い分野で使用されています。例えば、加熱をせずに製造する生ビールはろ過の技術があるからこそできるものです。身近な例だとドリップコーヒーもろ過器と同じ原理で、フィルターがろ材として機能しています。
ろ過の仕組み
ろ過材には、非常に小さな孔が開いており、固形の異物はその孔を通過することができません。水だけがろ過材を通過するため、ろ過材を通した後の水は、不純物が含まれておらず、きれいな状態になるという仕組みです。
ただし、水中に含まれる固形物がろ過材の孔よりも小さければ、孔を通過してしまうため、取り除くことができません。
ろ過器の構造
ろ過器は、実際のところろ過器は非常に単純な構造です。ろ過材を使用したフィルターが取り付けられており、そこに汚水を通すことで汚水に含まれるゴミや汚れが取り除かれます。
ろ過材には、砂や特殊ガラスなどさまざまな種類があり、それら素材の間を通過する際に、その隙間を水だけが通るという仕組みです。ゴミや汚れは隙間を通れないため、ろ過材の部分に溜まっていきます。
我々の身の回りにも、ろ過の仕組みを利用している道具は多いです。例えば、ドリップコーヒーのフィルターや水道の蛇口に取り付ける浄水器などが挙げられます。これらは、小さいだけで、構造はろ過器とほぼ同じです。
ろ材により汚濁物質が分離される
汚れている水というのは、水の中に汚濁物質が混ざっている状態です。逆にきれいな水なら、汚濁物質は混ざっていないため澄んで見えます。そして、ろ過というのは、水をろ材に通すことで、水中の汚濁物質を取り除く処理を意味します。
ろ材には様々な種類がありますが、ろ材の狭い隙間を汚れが通る際に汚れがろ材に衝突し、そのままろ材表面に付着することで汚れを除去します。汚濁物質を含む水がろ材を通過しようとすると、ろ材の隙間を水だけが通過して、汚濁物質はろ材表面に付着して通過できずに分離される仕組みです。
ただし、ろ材の隙間より汚濁物質の方が小さい場合には、通り抜けてしまうため分離することはできません。その場合には、他の方法を併用する場合もあります。
ろ過器は環境に優しい
工場などで使われている設備の多くは、エネルギーを消費して稼働しています。化学変化や熱変化などを伴い、汚染物質を排出していることも多いです。そのため、地球環境への影響が問題視されることもあります。
これに対して、ろ過器は水をろ材に通すという単純な装置であるため、エネルギーを使用せずに稼働できるのが特徴です。汚水をろ過材に通してろ過処理を進める際には、処理前の水と処理後の水との圧力の差で自然に進む仕組みになっています。温度センサーや制御盤などで電気を消費しますが、僅かな電力にとどまります。そのため、使用してもランニングコストがかさむことがなく、地球環境に悪影響を与えることもありません。
化学変化や熱変化なども伴わないことから、いくら使っても有害物質や汚染物質を排出することはないので、環境に優しい装置と言えます。
長期的にはメンテナンスが必要
ろ過器を使用する際には、定期的に逆洗やフィルター交換などのメンテナンスを行わなければなりません。
メンテナンスをしないでろ過器を使い続けると、ろ過器内にゴミや汚れがどんどん溜まっていきます。そのうち異物で水の通路が塞がって処理が進まなくなったり、ろ過が十分に行われなくなったり処理水に汚れが混じってしまったりすることもあるかもしれません。そうなると、ろ過器の機能を十分に果たせなくなってしまいます。
ろ過の方法
一般的によく行われているろ過の方法と、ろ過で使用する機材について見ていきましょう。
様々な方法がありますが、基本的にはろ過圧力を一定に保つ「定圧ろ過方式」とろ過速度を一定に保つ「定速ろ過方式」に分かれています。この2方式を基本に「変圧・変速ろ過方式」、「定圧・定速切換えろ過方式」、「段階的圧力上昇ろ過方式」などのバリエーションで、ろ過効率を高めています。
また駆動方式の違いにより、以下の方法が存在します。
- 重力ろ過……原水の自重を駆動力にする。「自然ろ過」とも言う。
- 加圧ろ過……コンプレッサーで圧縮した空気圧を駆動力に、原水をろ過器に注入する。
- 減圧ろ過……真空ポンプを駆動力に常圧と低圧の差を利用し、ろ過水を器低圧または真空の貯水タンクへ導水する。
- 遠心ろ過……遠心力を駆動力にろ過する。
緩速ろ過
緩速ろ過は多層にした砂利を、ろ過材として用いる方法です。砂利の中に藻類や微生物なども含まれています。ろ過材を通過するときに異物が取り除かれるのに加えて、藻類や微生物の働きにより、水中に含まれる菌類なども除去される仕組みです。
薬品を使わずにろ過できるのが利点ですが、あまりの濁りすぎた水を緩速ろ過しようとするとろ過材が壊れてしまう場合もあります。また、ろ過するのに時間がかかるのも難点です。
マルチサイクロン
マルチサイクロンは、遠心力の作用を利用して水中に含まれる汚れや不純物を分離させる道具です。取り除かれた汚れは、下部に溜まる仕組みになっており、ドレンバルブを開くことで排出できます。メンテナンスフリーで扱いやすいのが特徴です。
グラスパールフィルター
砂利の代わりに、ガラス製のろ材を使用している高性能ろ過器です。従来の砂ろ過器は、ろ材の中に汚れが浸透して排出しにくいことや、その汚れが腐食するなどの問題点を抱えていました。
しかし、グラスパールフィルターなら、ろ過材内部の汚れを排出できてきれいな状態を保つことができます。ろ材の交換頻度も低め手間がかかりません。その上、ろ過能力も従来の砂ろ過器より向上しています。
ろ材の種類
ろ材とは、液体をろ過するための多孔性の材料です。主に次の材料が用いられています。
- セルロース……高純度のセルロース(植物繊維)を基材にしたろ材。一般に「ろ紙」と呼ばれる。
- ガラス繊維……ガラス繊維を基材にしたろ材。機械的強度に優れ、セルロースと比べると、ろ過速度は数倍から数十倍速い。主に高粘度物質の減圧ろ過や気体中の浮遊粒子状物質除去のろ材として用いられる。
- メンブランフィルター……フッ素樹脂やセルロースアセテート(植物繊維を原料にした合成樹脂)を基材にしたろ材。孔径が揃った多孔性が特徴で、強度も優れている。しかしメンブランフィルターはろ材の孔の入り口にケーク(※)が溜まるので、他のろ材に比べ単位表面積当たりの許容ケーク量が極めて少ない。
- セライト……陶土や珪藻土を基材にしたろ材。他のろ材でろ過中に不溶物が皮膜化すると乳濁液が発生し、ろ過が困難になる。この場合、セライトをろ過の前処理材としてろ材の上に敷き詰め、減圧ろ過をすると、セライトが不溶物を除去するので乳濁液が発生しなくなる。
- ザクロ石・炭・砂利……ザクロ石・炭・砂利から成る多層の粒状物質を基材にしたろ材。浄水場の清澄ろ過器のろ材として広く用いられている。
(※)ケーク:ろ過材に溜まった不純物や汚染物質のこと。「ろ滓」とも言い、ケークが溜まると、ろ過速度が低下する。
ろ過器の種類
ろ過器の種類は多岐にわたりますが、基本的に次の3種類に大別できます。
ケークろ過器
ろ過水の流出方向に原水を注入する方式のろ過器です。ケークろ過器においては、ろ過の進行と共にケークがろ材に溜まります。ケークが溜まるとろ材が目詰まりを起こし、ろ過速度が低下します。したがってケークが一定量溜まると除去する必要があります。
加圧ろ過式の場合は、「バッチ処理方式(※1)」のタイプが多いので、一定量のケークが溜まるとろ過処理を中断し、ケークが溜まったろ材を新しいろ材に取り替えます。
一方、減圧ろ過式の場合は、「連続処理方式(※2)のタイプが多いので、一定量のケークが溜まると、ろ過処理を続けながらスクレーパー(ヘラ状の刃がついた工具)でケークを削り取ります。
(※1)バッチ処理方式ː「原水注入―ろ過―ろ過水生成」のろ過工程を1サイクルとして繰り返す方式のこと。各工程に費やす時間を任意に設定できるので、1台のろ過器で様々な原水のろ過処理に対応できるのがメリット。
(※2)連続処理方式ːろ過処理を中断しなくてよいので、大量の原水をろ過処理できるのがメリット。
ケークレスろ過器
流体力学的な攪拌によりケークを強制的に除去するタイプのろ過器です。ケークが貯留しないので、ろ過器の連続運転による高効率なろ過処理が可能です。
清澄ろ過器
ザクロ石・炭・砂利から成る多層粒状層に原水を注入し、粒状層内部の隙間で不純物や汚染物質を除去し、粒状層の出口からろ過水を回収する仕組みのろ過器です。原水の「清澄化」を目的としたろ過器であり、古くから浄水場のろ過器として利用されています。
清澄ろ過器は原水注入の方向の違いにより、次の3方式に分かれています。
(1)下向流方式
原水を上から下に向かって注水してろ過する方式です。最も一般的な清澄ろ過と言えます。
(2)上向流方式
原水を下から上に向かって注水してろ過する方式です。下向流方式のろ過では、ろ材を洗浄する度にろ過器の上部に微細な粒子層が形成されやすく、ここにケークが集中して溜まるので洗浄回数が増え、ろ過効率が低下します。この問題を解決するため、原水注入方向を逆にしたのがミソと言えます。
(3)上下向流
原水を上下向から、ろ過器に注入する方式です。上向流方式ろ過と多層式ろ過の良いとこ取りをしたハイブリッド方式と言えます。下向流はザクロ石層と炭層を経て砂利層から貯水槽へ流れ、上向流は砂利層と炭層を経てザクロ石層から貯水槽へ流れます。いずれの向流も孔が粗目のろ材から微細なろ材の順でろ過できるのが特徴です。
また清澄ろ過には、ろ過の駆動方式の違いにより、次の2種類があります。
- 重力式清澄ろ過器……原水の自重を駆動力にしたタイプ。管理やメンテナンスが容易なので、浄水場の一般的なろ過器として多く用いられている。
- 加圧式清澄ろ過器……圧縮空気圧を駆動力にしたタイプ。加圧が必要なので筐体は密閉構造になっている。
ろ過器の特徴(グラスパールろ過器)
ここではMDIが取り扱う「Waterco製グラスパールろ過器」を例とし、その特徴を紹介します。
関連ページ:WATERCO製 グラスパールろ過器の商品紹介
グラスパールろ過器の特徴として、次が挙げられます。
(1)優れたろ過能力
グラスパールろ過器のろ材は、化学反応を起こし難い不活性素材のガラス玉を基材にしています。このため汚染物質に対しても強いろ過能力を発揮し、そのろ過水は清潔で安全です。実際、汚染物質の浸出実験では、オーストラリアの飲料水ガイドラインをクリアとの結果が出ています。
(2)高効率なろ過
グラスパールろ過器のろ材は、直径0.6~0.8mmの微粒子を集積することにより、厚くて高密度の均質ろ材層を形成しています。このため連続処理方式でのろ過が可能で、継続的にケークを除去し続けるので、高効率なろ過運転を実現しています。
(3)優れた節水能力
グラスパールろ過器の過材は、球面が滑らかなので原水との摩擦係数が極めて低くなっています。このため逆洗時には、清澄ろ過器の場合と比べ20%少ない逆洗水でろ材に溜まったケークを除去します。したがってろ過器メンテナンスの時間と水を大幅に減らせます。
(4)ろ過器運転操作時間を短縮
グラスパールろ過器はマルチポートバブルを採用しているので、ろ過器の運転操作はすべて1本のバルブ操作でろ過モード、逆洗モード、排水モードなどへの切り替えができる仕組みになっています。したがって運転モード切換えの手間と時間を大幅に削減できます。
まとめ
ろ過器は、ろ材の孔より大きな物は通過できない仕組みを上手く利用して、水中に含まれる異物を分離させています。当たり前に日常生活で使用している水ですが、わたしたちが安心して利用できるのは、ろ過器という存在のおかげなのです。
ろ過器はプールや浄水施設などさまざまなところで使用されており、エネルギーを消費せず化学変化も起こしません。安全性が高く地球に優しい装置です。ランニングコストもあまりかかりません。ただし、取り除いた汚れはろ過材の内側に少しずつ溜まっていきます。
そのため、ろ過器を長期かつ効率的に使用するためには、当然のことですが定期的なメンテナンスが欠かせません。メンテナンスを怠って使用し続けると、ろ材にケークが溜まり続け、やがてろ過不能、ろ過水に汚染水が混じるなどの原因になります。
他にも「ろ過速度が急激に低下した」、「ろ材を取り替えたがろ過水の品質が悪い」などの場合は、メンテナンス不足以外の原因が考えられます。この時は、直ちにろ過器ベンダのアフターフォローを受けることが、トラブルの早期解決に繋がるでしょう。
アルファラバルの熱交換器やヒートポンプによる排熱利用と省エネならMDI TOPへ戻る