熱交換器とは何か?その基本的な仕組みと種類を紹介
気体も液体も固体も熱を持っており、その熱が移動することで温度の変化が生じます。熱の移動は自然に起こりますが、意図的に起こすことで温度を調整するのが熱交換器です。
ここでは熱交換器の基本的な仕組みや種類などについて紹介していきます。
目次
熱交換器とは
“熱交換器”とは、簡単に言うと読んで字の如く、『熱』を『交換する』ための機器です。
温度の異なる流体が触れ合っていると、温度が高い方は冷やされて温度が低い方は温められるでしょう。触れ合っている流体の温度は次第に均一になっていきますが、温度が高い方の流体から、低い方の流体へ熱が移動しています。この性質を上手く利用しているのが熱交換器です。
熱交換器が使われる場面
日常生活において、熱交換器そのものを直接見る機会は少ないと思います。ですが温度を変化させる機械や装置は、工場など製造業の現場では幅広く使用されている装置として知られています。
熱交換器は家庭でも様々な場面で利用されています。代表的な家電としては、ほぼ全ての家庭に存在するエアコン、冷蔵庫や冷凍庫、オイルヒーターなどが挙げられます。これらは温度変化を起こすための電化製品であり、その働きに欠かせない心臓部となるのが“熱交換器”です。
例えばエアコンは室内機と室外機の両方の熱交換器を利用する仕組みになっており、両方は冷媒管でつながっています。冷媒管には冷媒と言われる熱を運ぶガスが入っています。この冷媒を熱交換器に通すことで室内の熱を放出させたり、室外の熱を取り込んだりし、エアコンの温度調節がされるのです。
関連ページ:熱交換器が活躍!エアコンの冷暖房の仕組み
熱を移動させる仕組み
温かいものと冷たいものを同じ空間の中に置いておくと熱の移動が起こります。温かいものが含んでいた熱が冷たいものに移動し、最終的には両方が同じ温度になります。この移動により、その空間内温度は一定の温度に変化していきます。
熱移動の例
・お湯を沸騰させた鍋に冷たい水をいれる
→鍋の中の温度が下がり、鍋の中の温度は一定となる。
・熱すぎて飲めないお茶のコップに、氷を入れる
→氷が溶けてお茶の温度が下がり、コップの中の温度は一定となる。
熱が移動するためには“熱を運ぶための物質”が必要になり、その物質を流体と呼びます。上の鍋の例では水が流体の役割を果たしています。熱交換器が搭載されている装置などの能力や目的などに合わせて、水の様な液体や気体をはじめ様々な形状や種類の物質が流体として使われています。
このような熱の性質を利用して意図的に熱を移動させるための器(うつわ)が熱交換器です。
ただし鍋やお茶の様に、2流体を混ぜ合わせるのではなく、部屋を仕切って熱だけを行き来させるため、熱交換器を通った後も2流体はそれぞれの流体のままになります。
熱交換器は、中に入れた温度の異なる2種類の流体を混ぜ合わせることなく温度だけを交換する機械です。
存在する熱を移動させるための熱交換器
高い温度の流体は、熱を沢山持っているとも言えます。よってその熱を低い温度の流体へ移動させることは簡単にできます。上の例の様に、『沸騰したお湯と冷たい水という具合で、温度差が大きい場合は、熱交換したことを実感しやすいものです。
一方で2つの流体の温度差があまりない場合は、熱交換をすることは難しくなります。少し暖かいものと、少し冷たいものを混ぜても、お互いにぬるいと感じる程度にしかならないのと同じことです。
熱交換は、どちらかに存在する熱を、もう一方に移動させることです。新たに熱を作り出すというのは熱交換器の役目ではありません。熱そのものを作り出せるのは、電気やガスなどのエネルギー資源を利用した熱生成システムです。
空気中の熱を集めてお湯を沸かすこともできる
しかし目的によっては、流体の温度があまり高くないと、そのままの状態で目的を達成することができない場合もあります。そのため熱交換器を搭載した機械は、圧縮機などを使用して熱の持つエネルギーを増やし、熱を増やしています。
圧縮機を使って圧力をかけることで、流体の体積は小さくなりますが、その分だけ温度が上がります。そうすることで、熱の移動を促す仕組みとなっていて、家庭用や業務用などのエアコンにも利用されている技術です。その技術により、熱い夏に冷たい空気を作って涼んだり、寒い冬に温かい空気を作って暖まったりすることができるのです。
圧縮機のエネルギー変換能力はかなり強力で、一時話題となった『空気の熱でお湯を沸かす』というキャッチフレーズでお馴染みになった「ヒートポンプ」というシステムに代表されます。このヒートポンプシステムにより小型の機会などでもエネルギー変換を行える様になり、自動販売機の様な小型の機械にも搭載されるようになりました。
エアコンは身近な熱交換器の1つ
家庭用のエアコンや冷蔵庫にも熱交換器が使われており、熱を移動させることで冷やしたり暖めたりする仕組みになっています。ここではエアコンを例にして考えてみます。
エアコンは、冷媒と呼ばれるガスをエアコン内部にて使用しています。『外の空気と冷媒の熱交換』、『冷媒と室内の空気の熱交換』という2回の熱交換が行われています。室外機と室内機が存在するので、それぞれにて熱交換がされていると考えると分かりやすいかと思います。
これらを何度も繰り返すことで、エアコンの冷房が機能しています。エアコンを使用して部屋を暖かくする場合は、その逆の熱交換が順番にされていきます。<室内機>
『室外機から室内機へ流れた冷媒』と『室内の空気』が熱交換を行う
→『室内の熱』が冷媒に移動
→室内には『熱を冷媒に移動させた後の冷たい空気』だけが残る
→室内にて涼しさを感じることができる
<室外機>
『熱をもらった冷媒』は充分に熱を吸収して温められ、再び室外機へと移動
→その熱を『外の空気』と熱交換して、屋外に放出
(室内を冷房している際に、室外機から温かい風が出ているのはこれが理由)
熱交換器の利用用途
熱交換器は熱の伝道に利用される機器ですが、実際にはどのような場面で利用されるのでしょうか。ここでは、熱交換器の代表的な利用用途について紹介していきます。
用途1、加熱
熱交換器が利用されるのに最も多い目的が物体の加熱です。日常生活では、洗濯機の乾燥機能やヒーターなどに熱交換器による加熱が応用されています。例えば一般家庭でも使用されているオイルヒーターは、パネル内のオイルを熱することで室内を温めます。また給湯器は熱交換器が水道水を温水に変えています。産業分野では、ボイラーにおける加熱にも熱交換器が活用されています。
用途2、冷却
日常生活においては、空気を冷却するエアコンや冷蔵庫などには冷却用の熱交換器が必ず搭載されています。また自動車やオートバイには、エンジンの冷却水を空気で冷やす熱交換器であるラジエータが搭載されています。さらに工場では、業種を問わず冷却用の熱交換器が使用されています。製造業の現場においても、化学薬品や液晶などの分野で冷却技術が用いられます。
用途3、冷凍
凍らない冷媒を活用し、0度以下の空気を作り、個体を凍らせることも熱交換器で実現が可能です。近年では、冷凍食品が大量製造されることから、冷凍への利用が増えています。冷凍食品工場や冷凍倉庫では、「不凍冷媒」の循環で0℃以下の空気を発生する熱交換器が使用されています。
用途4、蒸発
液体を気体に変え、蒸発させるのも熱交換器の役割です。液体を加熱して気体に変える熱交換器となります。日常生活では水分を蒸気にするミストの生成が当てはまり、スチームサウナの蒸気発生装置に熱交換器が搭載されています。家庭で利用する都市ガスにも蒸発させることで気体として利用されています。
用途5、凝縮
凝縮とは、気体を液体に変えることです。この凝縮にも熱交換器が利用されています。家庭で利用される除湿機にも熱交換を利用しているタイプがあります。除湿器のうちコンプレッサー式のものは、室内の空気中の水分を熱交換により水に変換しタンクに貯水。これにより室内の除湿を実現しています。
関連記事: 温度が高い方から低い方へ熱が移動する理由
熱交換器の種類
熱交換器は、温度が異なる物体の加熱や冷却に用いられます。しかし対象となる物体や冷却媒体や機器の構造、利用目的などにより種類が複数存在します。熱交換器の種類を適切に把握することで最適な熱交換器を選びやすくなるはずです。
熱交換器の利用目的による分類
ここでは利用目的別に分類して熱交換器を紹介していきます。
食品製造、化学薬品製造、冷蔵・冷凍施設などで用いられる熱交換器
・凝縮器…………気体を冷却して液化する
・蒸発器…………液体を加熱して気化する
・冷却塔…………高温の流体を外気で冷却する
・加熱塔…………低温の流体を外気で加熱する
・冷蔵・冷凍機…冷蔵・冷凍保管庫で用いる熱交換器
ボイラーで用いられる熱交換器
・給気予熱器…排ガス熱で燃焼用空気を温める
・給水予熱器…排ガスでボイラー給水を温める
・水冷壁………ボイラーの配水管熱を回収し、加温に再利用する
・過熱器………飽和蒸気を加熱し、過熱蒸気にする
・再熱器………蒸気タービンの排出蒸気を再加熱し、再熱タービン運転用の蒸気を作る
空調・換気で用いられる熱交換器
・ファンコイルユニット……『水―空気』の熱交換で送風を加熱・冷却する
・室内機…………『伝熱媒体―空気』の熱交換で送風を加熱・冷却する
・放熱パネル……『伝熱媒体―空気』の熱交換で放熱する
・全熱交換器……室内の熱と湿気を同時に室外へ排出、乾燥・低温空気を室内へ給気する
・顕熱交換器……室内の湿気のみを室外へ排出、乾燥空気を室内へ給気す
熱交換器(構造別)の特徴と、メリット・デメリット
ここでは構造別に分類した熱交換器のそれぞれの特徴と、メリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
空冷式熱交換器(エアフィンクーラー)
空冷式熱交換器はエアフィンクーラーとも呼ばれ、大気を冷却する用途に用いる熱交換器で、主に『チューブ』と『ファン』とで構成されています。冷却対象となる液体をチューブ内へ流すことにより、ファンで外気を送風し、液体と空気との温度の違いを活用して液体を冷やします。電源以外の設備が要らず、設置場所の制限が少ないため、主に冷却塔のような屋外設置タイプの熱交換器として使われています。
対象とする物体 | 大気 |
メリット | 水源がない場所においても、運用できる フィンが腐食に強く、運転が比較的安定する |
デメリット | 設置場所確保が課題となりやすい |
ファンコイルユニット(FCU)
ファンコイルユニット(FCU: Fan Coil Unit)は、送風機をさすファンおよびコイルが一緒になった機器で、冷やした水をコイルの中に循環させます。そしてそのコイルに対して送風を行い、冷風を作り出す構造となっています。同じ原理を用いて、温風を作り出すことも可能です。
対象とする物体 | 気体 |
メリット | 置き場所の確保が他よりも容易になる |
デメリット | 冷却水を送るための設備が要求される |
ブレージングプレート熱交換器
プレート式は凹凸のある金属製の板を使用しているタイプです。板を何枚も重ね合わせて熱媒と冷媒を交互に通すことで、熱媒から冷媒へ熱を移動させる仕組みとなります。ブレージングプレート熱交換器は、高温と低温の液体とが複数の伝熱プレート間を交互に流れることにより熱を交換する構造になっています。高効率の熱交換が実現でき、僅かな温度の差を十分に活用できるのが強みです。プレート部分にはステンレスの素材、ロウ付け部分には銅が用いられることが一般的です。使用する流体や条件によりオールステンレスの熱交換器が用いられることがあります。
対象とする物体 | 液体 |
メリット | 耐圧性能が高い 他の構造の物と比べ熱交換の効率が高め小さな温度差でも熱交換できる ランニングコストが低い |
デメリット | 機器を分解するのが難しい 整備がしにくい |
関連記事:プレート式熱交換器の紹介
ガスケットプレート熱交換器
複数の伝熱プレート間を、高温と低温の液体とが複数の伝熱プレート間を交互に流れることにより熱を交換する仕組みはブレージングプレート式と同じです。しかしガスケットプレート式はゴム製のガスケットで伝熱プレート間を仕切り、ガスケットおよび伝熱プレートの交換や追加により、冷却能力強化をはかることができるという特徴があります。
対象とする物体 | 液体 |
メリット | 複数の伝熱プレートへと分解可能なため、メンテナンスが容易 伝熱プレートの枚数増加により冷却を強められる 効率が良い熱交換が可能 プレート枚数を増やして熱交換効率を高めることが可能 他よりもサイズが小さい |
デメリット | 設置場所にメンテナンススペースが必要になる |
シェル&チューブ熱交換器
シェル&チューブ熱交換器は、伝熱管(チューブ)を胴体(シェル)に収め、流体を通して熱交換を行う手法を採用した熱交換器です。基本は1本の太いシェルの中に、細いチューブを複数通した構造をしています。流体そのものはシェルとチューブの間を行き来することはできないため、混ざってしまうこともありません。圧力損失を小さくできるのが特徴で、粘度の高い流体にも対応できることから、化学プラントや油圧関連機器などで利用されています。
対象とする物体 | 液体 |
メリット | どの温度の素材にも対応しやすい 低温・高温、低圧・高圧、加熱・冷却、蒸発・凝縮など幅広い用途の熱交換に対応可能 機器のメンテナンスが他よりも簡単 |
デメリット | 機器のサイズが大きい |
投げ込み(浸漬)式熱交換器
投げ込み式熱交換器は、水槽やタンクの中に流体を管状の熱交換器に入れて、熱交換を行う構造です。冷却対象の循環構造が求められないことから、他に比べて導入が容易です。
対象とする物体 | 液体 |
メリット | タンクに合わせた形状設計が可能 コストが比較的にかからない導入が簡単である |
デメリット | 交換できる熱量を想定する難易度が高い 伝動効率が他の方法よりも悪く、攪拌機が要求される |
ジャケットタンク式熱交換器
ジャケットタンクは、2つの水槽を用意し、内槽を外槽(ジャケット部)で包む構造になっています。水を外槽に循環させ、内槽の保温や加温や冷却といった温度調節を行う仕組みです。衛生面に強いステンレス製の水槽を利用することが多く、洗浄が容易なこともあって、食品や医薬品の製造に利用されることが多い点も特徴となります。
対象とする物体 | 液体 |
メリット | メンテナンスが比較的簡単 |
デメリット | 伝動効率が悪い 攪拌機の導入が必要となる |
熱交換器のメンテナンス
熱交換器は長期間使用していると、様々な要因で摩耗・劣化し熱交換効率が低下します。これを避けるには熱交換器メーカー・販売代理店の定期的なメンテナンスが必要です。
熱交換器は定期的にメンテナンスすることで本来の熱交換効率を保持やすくなり、寿命も延びる傾向にあります。このためメーカー・販売代理店と定期メンテナンス契約を結ぶと同時に、「調子が悪い」と思ったら直ちに専門的な点検を受けることが重要です。熱交換器のメンテナンスは基本的に次の方法により行われます。
内部洗浄
熱交換器をパーツ単位に分解し、パーツごとに洗浄する方法です。洗浄には熱交換器専用の洗浄液を用います。
ガスケット交換
熱交換器に使われるガスケットはゴム製なので、経年劣化により摩耗します。そのため定期的にガスケット交換を実施する必要があります。交換時期は、以下が目安となっています。
・熱交換対象が温水……………3~5年
・熱交換対象が蒸気や高温水…1~2年
伝熱板交換
熱交換器の伝熱板を新品同然の伝熱板と交換する方法です。交換した古い伝熱板はメーカーが洗浄・補修して新品同然に再生し、次回メンテナンス時の交換に用います。
関連記事: プレート式熱交換器でよくある トラブルと解決方法
まとめ
熱交換器は、温度の高い方から低い方へ移動する熱の性質を利用して、何かを温めたり冷やしたりするための「器(うつわ)」です。その器を使って、様々な機械や装置が作られており、それらを使って工場や家庭の快適さが作られているということです。また熱交換を使ったシステムにより、温度差のないところでもスムーズな熱利用を可能としています。
温度調整に欠かせない装置のため、エアコンや冷蔵庫など温度調整機能のある電化製品には、必ず熱交換器が使われています。
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