熱回収の仕組みとは?廃棄物をエネルギーとして有効活用
熱回収とは、廃棄物を焼却するときの熱エネルギーを回収して有効活用することです。
廃棄物を処理する際には、焼却処理されることが多いです。大量の熱と二酸化炭素が発生しますが、その熱を回収して有効活用する熱回収も同時に行われています。回収した熱エネルギーは熱交換器や熱回収ヒートポンプを介して、エアコンや冷蔵庫、温水プールや発電に使われます。
平成23年4月からは熱回収施設設置者認定制度が施行されました。これは熱回収の促進によって、循環型社会と低炭素社会を統合的に実現することを目的としています。認定されると、廃棄物の保管日数の延長や、定期検査の義務が免除されるなどのメリットがあります。ただし、熱回収は有害物質の発生や二酸化炭素の排出といった問題があるのも事実です。
今回の記事では、熱回収の概要やメリット、熱回収に用いる熱交換器やヒートポンプについて解説しています。合わせて、熱回収施設設置者認定制度についてもふれています。
目次
熱回収とは
熱回収とは、廃棄物を焼却した際に発生する「熱」を回収して有効活用することです。これまで捨てられていた熱を再利用するため、化石燃料の消費量を削減することができます。コストの削減にもつながるため、生産効率の工場と環境保護を両立できる画期的な方法です。
熱回収の仕組み
例えば、廃棄物を焼却処理する際に焼却炉を使用しますが、その中は非常に高温になっており、大量の熱が発生しています。焼却が終わって火が消えると、次第に焼却炉の中の温度も下がっていくでしょう。焼却時に発生した熱は、焼却炉の温度が下がるにつれて、空気中に少しずつ逃げていきます。一方で、製造工程や室内の暖房などで熱が必要なときには、ボイラーや暖房器具などを使用しているでしょう。これらの道具では、化石燃料や電気などのエネルギーを使って熱を発生させています。
このように、熱を不要なものとして捨てている一方で、わざわざエネルギーを消費して必要な熱を発生させているのはもったいないです。そこで、熱回収を行えば、廃棄物の焼却で発生する熱を空気中に逃さず、回収して再利用できます。廃棄物の焼却のように、温度差の大きな熱源から熱回収する場合には、熱交換器を使用することが多いです。
また、工場の設備を稼働させたときに発生する排熱も熱回収によって再利用が可能です。熱の状態により、ヒートポンプなどを使用することが多くあります。
熱回収で使われる機器
熱回収に使われる装置に、熱交換器があります。一言でいえば、熱を交換する容器です。温かい流体から冷たい流体へ熱を移動させる機器であり、水や周囲の空気などを流体として利用します。熱交換器は身近なところでも使われており、代表的なものとして挙げられるのはエアコンや冷蔵庫、パソコンなどです。
例えばエアコンには熱交換器が室内機と室外機にあり、冷房時には冷媒というガスを使って室内機の熱交換器で屋内の熱を吸収し、室外機の熱交換器で大気中へ熱を吐き出します。
ただし、熱交換器は2つの流体または気体に温度差があることを前提とします。温度差がないときはヒートポンプを使用しますが、電気エネルギーが必要です。ヒートポンプについては後述します。
関連ページ:熱交換器とは何か?その基本的な仕組みと種類を紹介
熱回収のメリット
日常生活の中では、燃料を消費して熱を発生させることがあります。灯油を使用する石油ストーブや石油ファンヒーターが代表的な例です。しかし、このように燃料を使用して、わざわざ熱を発生させると有害物質が発生するため、地球環境や健康への悪影響が考えられます。そこで、代替えになるものとして考えられているのが「熱回収」です。
資源の枯渇や地球温暖化が懸念される中で、熱回収は地球環境に優しい取り組みとして注目を浴びています。企業にとっても、消費する資源が少なくて済むためコストダウンにつながり、メリットが大きいです。ここでは詳しく見ていきます。
熱回収で燃料費を削減できる
熱回収によって得た熱は、ヒーターなどに再利用することができます。ヒーターで使う熱の全てを熱回収で賄うことはできなくても、一部を賄うことは可能です。その分だけ化石燃料や電気などの消費量は減ることになるでしょう。
熱回収を導入する前と比べて燃料費などのコストを削減できるケースが多いです。
MDIでは、ボイラー排熱から最大約75パーセントの熱を回収目標も可能です。実験においては、燃料費も約15パーセントの削減を実現しました。工場だけでなくビニールハウスなどでも利用できます。暖房や温度調整などを行っているところでは、利用可能なケースが多いため、ぜひ熱回収の導入を検討してみてください。
関連ページ:排熱利用熱交換器の導入事例(省エネ対策)
熱回収は環境保護にも貢献できる
熱回収により化石燃料の消費量が減らせれば、地球環境保護にも貢献できます。
廃棄物を処理する際に、熱エネルギーが必要とされる場面はかなり多いです。一方でまとまった量の熱エネルギーを発生せるためには、燃料を燃やすという方法が用いられます。その際に使用する燃料は、石油が使われることが多く、限りある資源を消費しなければなりません。また、石油などの燃料を燃やす場合には二酸化炭素が発生するので、地球環境にも悪影響を与えてしまうでしょう。
その点、熱回収なら処分する廃棄物を燃やす際に発生する熱をエネルギーとして活用します。つまり、廃棄物が燃料の役割を果たすというわけです。その分だけ石油などの資源を消費しなくて済み、二酸化炭素の排出量の削減につなげることができるでしょう。
熱回収ヒートポンプ
熱回収ヒートポンプは、エアコンや冷蔵庫などで用いられる熱回収の具体例の1つです。ヒートポンプの種類は3つです。
関連ページ:ヒートポンプとは?廃熱に有効なヒートポンプの仕組みと種類
冷媒の発熱と吸熱を利用するもの
冷媒の発熱と吸熱を利用するヒートポンプは主に3種類です。
- 蒸気圧縮ヒートポンプ
- 吸収式ヒートポンプ
- 吸着式ヒートポンプ
冷媒が気化するときに発する気化熱、凝縮熱を利用します。アンモニアの気化熱を利用しているヒートポンプは、主に冷蔵庫や冷凍庫に使用されています。
空気熱以外の熱を利用するもの
空気熱以外の熱とは地中熱、水源熱、太陽熱などです。これらを利用するヒートポンプは熱源が近くにあることが条件ですが、空気熱よりも効率的に熱を広範囲に届けられます。例えば牛舎や豚舎において、ふん尿の排熱を利用して動物にとって快適な環境を実現することもできます。
格子振動を利用するもの
格子振動を利用するヒートポンプは、細かい温度調節が可能です。半導体を用いて電流を熱電素子に流し素子に格子振動を発生させることで、熱移動をおこないます。このタイプのヒートポンプは精密な温度管理が要求される医療用機器や、小型の冷温庫に使われています。
熱回収の具体例
具体例にどんな場面で熱回収が行われているのか見ていきましょう。
ボイラーのエコノマイザー
熱回収の代表的な例としては、ボイラーのエコノマイザーが挙げられます。ボイラーを沸かす際に燃焼排気ガスが発生しますが、その燃焼排気ガスは高温です。そのため、燃焼排気ガスを有効活用して給水予熱を行うことができます。
熱回収を行わないタイプのボイラーなら熱効率は80パーセント前後です。しかし、この方法で熱回収を行うことで、熱効率を95パーセント程度まで高められ、投入したエネルギーがほとんど無駄なく使われます。
ゴミ発電
ゴミが発電はゴミを焼却処分する際に、発生する熱で火力発電を行う方法です。火力発電では通常なら化石燃料を燃やして発生した熱を利用しますが、代わりにゴミを燃やしたときに発生する熱を使います。ただ、現状のゴミ発電は発電効率があまり高くないのが難点です。技術的な面で発電効率はまだまだ上がる余地があるため、今後は普及していくかもしれません。
例えばゴミ焼却施設では、大量の廃棄物を焼却処理しており、熱と二酸化炭素が大量に発生しています。しかし、廃棄物の焼却処理により発生した熱は、大気中にそのまま放出されているケースがほとんどです。その熱を回収して、熱を必要とするところへ送れば熱の再利用が可能になります。このことが熱回収です。
暖房の熱として利用すれば、省エネにもなります。石油ストーブの暖房器具と比較して、二酸化炭素の発生量と限りある燃料の消費が減らせるため、地球環境への配慮にもつながるでしょう。
このことから、熱を資源として捉え、熱回収をリサイクルの一種として捉える見方も増えてきました。熱回収は、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルと並んで、サーマルリサイクルと呼ばれています。
関連ページ:排熱利用熱交換器の導入事例(省エネ対策)
熱回収施設設置者認定制度
熱回収施設設置者認定制度とは平成23年4月から施行された、廃棄物焼却時の排熱回収をより促進するための制度です。各都道府県知事から認定を受けられるのは、環境省令が定める基準に適合している業者です。
認定を受けるメリット
熱回収施設設置者として認定されるメリットは、主に3つあります。
- 廃棄物の保管日数が延長される
- 定期検査の義務が免除される
- 処理委託の増加が見込める
廃棄物の保管上限は通常14日分です。ですが、認定された業者は保管日数が21日分に引き上げられます。また、5年ごとの定期検査が免除されるうえ、処理委託件数の増加も見込めます。
認定を受けるための要件
熱回収施設設置者として認定されるのは、2つの要件を満たしている業者です。
- 熱回収施設の技術上の基準
- 申請者の能力の基準
熱回収施設の技術上の基準
熱回収施設の技術上の基準とは、次の3つです。
- 廃棄物処理施設の技術上の基準に適合している
- 発電をおこなう場合はボイラーおよび発電機、発電以外をおこなう場合はボイラーまたは熱交換器が設けられている
- 熱回収により得られる電力量や熱量を把握するために必要な装置が設けられている
申請者の能力の基準
申請者の能力の基準とは、次の3つです。
- 年間の熱回収率が10%以上である
- 投入するエネルギーの30%を超えて燃料の投入をおこなわない
- 熱回収に必要な設備の維持管理を適切におこなうことができるものである
まとめ
熱回収は、廃棄物を燃やすときに発生する熱エネルギーを回収して利用することです。回収した熱エネルギーは、温水プールや発電などに用いられています。
熱回収には熱交換器や熱回収ヒートポンプを利用します。熱交換器は流体または気体の温度差を利用し、温度差がなければヒートポンプを用います。
平成23年4月からは熱回収を促進するために、熱回収施設設置者認定制度が施行されました。各都道府県知事から認定を受けると、廃棄物の保管日数が延びたり、定期検査の義務が免除されたりします。ただし、認定を受けるためには2つの基準を満たさなければなりません。
熱回収の仕組みを導入することで、捨てるはずの廃棄物を燃料として有効活用できます。その分だけ限りある資源を使わずに済み、二酸化炭素排出量も抑えられるので地球環境に対して好影響です。さらに、コスト削減にもつながるので、ぜひ熱回収の導入を検討してみてください。
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