全熱交換器の仕組みとは?熱と湿度を交換する仕組みを解説
全熱交換器は換気しながら空調機能をサポートして、省エネ効果を高める効果が期待できる換気機器です。全熱交換器は熱と湿度を交換する仕組みによって、室温の維持に貢献します。
熱を交換する仕組みは、全熱交換器のほかにエアコンや冷蔵庫でも使用される身近なものです。しかし専門的な知識がないと、難解に思える仕組みでもあります。
そこでこの記事では、全熱交換器がどのような仕組みで室温を維持しながら換気しているのか、使用するメリットや効果を最大化する使用の方法について解説します。
目次
全熱交換器とは
全熱交換器とは換気装置の一種です。顕熱(温度として現れる熱)に加え、潜熱(大気に放出されている熱)も交換できる構造となっており、室内換気と空気の快適性を両立させる効果が期待できます。
全熱交換器は取り込んだ空気中の熱と湿度を調整し、室内の温度や湿度が大きく変動しないように保つ機能を持っています。これによって、季節を問わず室内の空気を快適な状態に保つことが可能になります。
機密性が高く、換気がむずかしい建物内でも、空気の質を確保しながら換気することができる高機能換気装置です。エアコンをはじめとする空調装置を併用することで、省エネ性能が高まるのも全熱交換器の特徴となります。
全熱交換器の特徴
全熱交換器は換気扇の一種です。換気扇の種類は豊富にありますが、全熱交換器には次のような特徴があります。
- 排気ファンと換気ファンがある
- 温度と湿度を調整
排気ファンと換気ファンがある
全熱交換器には、排気ファンと給気ファンの両方が設置されています。換気を実現するためには室内の空気を屋外に排出する排気と、屋外の空気を室内に取り込む給気の両方が必要です。全熱交換器であれば給気と排気の両方を機械でおこなうため、容易に換気できます。
例えば、キッチンや洗面所で使用されるプロペラのついた換気扇は、排気ファンのみで構成された換気機器です。そのため換気扇の場合は、窓を開けるといった方法で外気を取り入れる必要があります。
2003年の建築基準法の改正以降、シックハウス対策として屋内空気を常時換気することが義務付けられています。(参考:建築基準法に基づくシックハウス対策について(国土交通省))全熱交換器であれば、窓を開けられない居室や機密性の高い建物でも24時間の換気が可能です。
温度と湿度を調整
全熱交換器には熱交換エレメントとよばれる機器が搭載されており、取り込んだ空気は熱交換エレメントを通して室内もしくは屋外に放出されます。
熱交換エレメントは、空気中の熱と湿度を移動させる特殊な装置です。熱交換エレメントを通過させることで、室内に流れ込む空気の温度と湿度を一定に保つことができます。
室温の大きな変化を防ぎエアコンの負担を軽減できるため、省エネ効果が期待できます。
換気方法の種類
室内で利用する換気方法は、自然換気と機械換気に分類できます。
- 自然換気
- 機械換気
自然換気
自然換気とは窓を開けるほか、空気が出入りする穴を設けることで換気方法です。特別な機器の設置を伴わないため簡便である反面、外気温や外気の湿度の影響で室内環境が大きく影響を受けます。
また、窓を開けられない建物では自然換気できません。自然換気は建物の立地や階層といった環境によって左右されます。
機械換気
機械換気は強制換気とも呼ばれます。天井や壁に設置した機械で強制的に換気をおこなうのが機械換気です。全熱交換機のほかにも、換気扇を用いた換気方法が機械換気に該当します。
機械換気の3つの方法と、それぞれの特徴をまとめたものが次の表です。
機械換気の種類と吸排気の方法
換気の種類 | 給気の方法 | 排気の方法 |
第1種換気 | 機械による | 機械による |
第2種換気 | 機械による | 自然換気 |
第3種換気 | 自然換気 | 機械による |
全熱交換器は第1種換気にあたります。全熱交換器は給気排気ともに機械で強制的におこなうため、安定した換気を確保できます。
第2種換気は室内の気圧が外気よりも高く、機密性がある場合に利用されます。一般的な住宅にほとんど使われることはありません。
第3種換気に該当する機器で代表的なものが換気扇です。臭気や湿度が発生する場所で使用するのに向いています。洗面所やキッチンでよく利用されており、3つの換気法のなかでもっとも普及している方法です。
全熱交換器の仕組み
全熱交換器は室内外の空気を取り込んで交換する際に、温度と湿度の調整をおこなう機能を搭載しています。
室内から取り込んだ空気の温度と湿度は、取り込んだ外気に移して室内に放出します。一方の取り込んだ外気に含まれる空気の温度と湿度は、屋外に排出する空気に移す仕組みです。これによって、換気しながら室内の温度と湿度を一定に保つことが可能になります。
夏の暑い日を例に挙げます。このとき全熱交換器の中では、エアコンで冷やされた室内の冷気の冷たさが、室外から取り込んだ熱い空気に移行されています。一方の熱せられた外気からは熱を奪い、排気に移して排出するため、室内に熱風が入り込むことはありません。
これと同時に、湿度の調整もおこなわれています。室内の湿度は室内に、室外の湿度は室外に流れていく空気に移すことで、室内の湿度を一定に保つことができます。湿度は体感温度の高低に影響することから、温度と同様に重要な要素です。
全熱交換器は外気と室内の空気の温度と湿度を交換することによって、室内を快適な状態に保つことができます。
全熱交換器の構造
全熱交換器は主に次の3つの部分で構成されています。
- 換気装置
- 熱交換器
- ダクト(配管)
なお最近は換気装置と熱交換器を一体化させた、配管を必要としないものも登場しています。設置場所によって選択してください。
全熱交換器の心臓部ともよばれる重要な役割を果たすのが、熱交換器です。熱交換器エレメントとよばれます。熱交換エレメントは、空気中の熱と湿度を移動させる熱交換素子という特殊な部材で作られた装置です。
熱交換素子とは
熱交換素子は、屋内外の空気の熱を入れ替えるための部材です。プラスチックや紙でできています。
プラスチック製の熱交換素子は熱のみ、紙製の熱交換素子は熱と湿度の両方を入れ替えることが可能です。そのため全熱交換器では、紙製の熱交換素子を使用します。なお、プラスチック製の熱交換素子は顕熱交換器の熱交換エレメントに使用されます。
顕熱と潜熱
熱には顕熱と潜熱の2種類があります。
- 顕熱:温度計で測ることができる熱
- 潜熱:気体から液体もしくは液体から気体に変化するときの熱
人間が涼しさや暖かさには、温度計で測ることのできる熱と湿度が関係しています。
例えば高温多湿な日本の夏では、気温は高くない日にも暑いと感じることがあります。これは空気が湿度を豊富に含んでいるため汗が空気中に蒸発しにくく、体温が下がりにくくなることが原因です。
全熱交換器は、熱交換エレメントを通過する空気から熱だけでなく湿度を奪います。屋外から取り込んだ空気の湿度が高いときは湿度を取り除き、室内の冷気を移して室内に放出するため、室温も室内の湿度も外気の影響を受けません。
全熱交換器は顕熱と潜熱(湿度)の両方を交換するので全熱交換器、顕熱交換器は顕熱のみを移動させる顕熱交換器という名称になっています。
熱交換機器エレメントの種類
全熱交換器のエレメントには次の2種類があります。
- 回転型
- 静止型
回転型は室外機一体型のほか、配管の設置が不要なコンパクト設計の全熱交換器で多く利用されています。
一方の静止型は天井に埋め込むタイプや室内外の天井や壁に熱交換器を設置して配管を接続する構造の全熱交換器に用いられる熱交換の仕組みです。
回転型
回転型の全熱交換器は、送風機と熱交換装置が一体になっています。ローター、つまり回転装置が換気と熱交換の両方を担います。ローター自体に吸湿性をもたせており、空気がローター部分を通過する際に空気中の湿度と熱を吸収する仕組みです。
回転型のローターはその構造の半分で外気を、残りの半分で屋内の空気を通過させる構造です。ローターが回転することによってローター内部に取り込んだ熱を含んだ湿度を移動させています。
例えば、エアコンで冷えた室内の空気がローターを通過する際には空気中の湿度とともに冷えた空気がローターに吸収され、冷気を奪われた後の空気が排出されます。
これと同時に屋外から取り込んだ熱い外気はローターを通過する際に、室内の空気から取り除かれた冷気を移し、冷やしてから室内に取り込みます。
静止型
静止型の熱交換器はエレメントと、2台の送風機によって構成されています。静止型の全熱交換エレメントは特殊加工を施した紙製です。仕切り板と間隔板を層状に重ね合わせ、内部が複数の三角形の骨組みで空洞が潰れないように支えた、トラス構造に作られています。
仕切り板と間隔板で空気のとおり道を作り、このなかを外気や室内の空気が通過させる仕組みです。身近なものであれば段ボールの断面がまさにトラス構造になっています。
静止型の全熱交換エレメントでは仕切り板によって、給気層と排気層が交互に重なっています。これによって、外気から取り込んだ空気と室内の空気が混ざることはありません。しかし、仕切り板は紙製であるため熱と湿度は透過します。
静止型の全熱交換エレメント内部では、この仕組みによって屋内外から取り込んだ空気の熱を移動させています。
例えば、室内の空気はエアコンで冷やされ、一方の外気は炎天下による熱気を帯びている場合で考えてみます。
熱交換器を通過する際に、室内の空気の冷たさが仕切り板を介して、熱せられた外気に移動します。冷気によって冷やしたあと外気が室内に取り込まれるため、室温を大きく変動させません。また、屋外には冷たさを取り除いた屋内の空気が排出されます。
回転型と静止型の違い
回転型、静止型の違いをまとめたものが次の表です。
回転型と静止型の違い
種類 | ダクト(配管) | 装置のサイズ | 性能 | 換気できる範囲 |
回転型 | ◯ | ◯ | △ | △ |
静止型 | ✖️ | ✖️ | ◯ | ◯ |
回転型は配管不要なものや、配管の本数が少ないものもあります。熱交換エレメントのサイズもコンパクトなため省スペースでの設置が可能です。その反面、広い居室では機能が足りません。
静止型は熱交換器のサイズが大きいため場所をとるほか配管工事も必要です。その分、パワフルな換気性能を発揮するため汎用性が高く、さまざまなタイプの建物で活用できます。
いずれも設置工事が必要なこと、導入コストやメンテナンスのコストが必要なため、設置場所に適した全熱交換器を導入することが大切です。
全熱交換器を設置するメリット
全熱交換器には次のようなメリットが期待できます。
- 室外の状況に左右されない換気
- 換気量を安定的に確保
- 汚染物質を取り込みにくい
- 省エネ
室外の状況に左右されない換気
全熱交換器であれば、暑い夏から寒い冬まで、季節や天候を問わず常に快適な状況で換気をおこなうことができます。
感染症拡大防止の観点から室内換気は今や必須です。しかし、自然換気の場合、夏は暑く冬は寒い空気が入り込むほか、天候次第で十分な換気ができない事態も発生します。
全熱交換機を導入すれば、1年中安心な換気環境が実現します。
換気量を安定的に確保
全熱交換器は1時間あたりで換気できる風量を設定できるため、一定の換気量を確保することが可能です。換気量が安定することによって人の呼吸によって発生する二酸化炭素の濃度が高くなりすぎるのを防ぐ効果が期待できます。
汚染物質を取り込みにくい
全熱交換器は、フィルターを介して外の空気を取り込みます。そのため自然換気のように、ほこりや虫が室内に入り込む可能性が大幅に軽減されるのはメリットです。
省エネ
全熱交換器で換気すれば、エアコンの省エネ効果が期待できます。
換気のたびに室内の温度や湿度が変動すれば、そのたびにエアコンは大きな電力を消費して駆動しなければなりません。エアコンから放出される熱の環境負荷も懸念されます。しかし、全熱交換器を使用すれば室温や湿度を一定に保つことが可能です。
空調効果を最大化することで環境負荷を低減し、省エネ効果につながります。
エアコンとの併用でメリットを最大化
全熱交換器は、エアコンと併用することでメリットを最大化できます。
仮にエアコンがなく室内の気温や湿度が快適な状態に整っていない場合、換気はできますが室温や湿度は維持されるため、全熱交換器の効果を十分に発揮できません。
エアコンの電気代を節約し、室内環境を快適に維持するなら、全熱交換器はエアコンと併用をご検討ください。
全熱交換器の弱点
全熱交換器の弱点には次のようなものがあります。
- コストがかかる
- 機密性の低い建物には不向き
- 臭気や湿度が高い居室に不向き
コストがかかる
全熱交換器を導入するにあたっては、第3種型のように簡易な機器に比べると初期費用がかかります。また、全熱交換器はフィルター交換や換気ダクトの清掃といったメンテナンスが必要です。業者に依頼する必要があるため、維持コストがかかります。
なお、換気ダクトとは空気がとおる煙突部分です。換気ダクトには空気中のホコリが残留しやすく、機器を故障させる原因になります。また、ホコリが湿度を吸収するとカビやダニが発生する可能性も原因になるため、定期的なメンテナンスは欠かせません。
全熱交換器の導入に際しては、初期費用やフィルターの清掃や交換といった維持費も加味してご検討ください。
機密性の低い建物には不向き
全熱交換器は断熱性や機密性が高い建物での換気で効果を発揮できる機器です。
例えば、断熱性能や気密性が低いためにエアコンの効果が十分に行き渡らない建物では、熱回収の効率が悪くなることで、全熱交換器が十分に機能しない可能性があります。
臭気や湿度が高い居室に不向き
全熱交換器はその仕組みの都合上、強い臭いや湿度の発生する場所での使用には不向きです。
全熱交換器は、室内から取り込んだ空気の温度や湿度をそのまま室内に戻す仕組みです。このとき室内から吸い上げた空気に含まれている臭いも室内に戻ります。
例えば、臭いが発生しやすいトイレやキッチン、喫煙スペース、湿度の高い浴室では、臭いや湿度が室内に戻るため、全熱交換器の設置には適しません。臭いや湿度を屋外に排出する必要がある箇所では、換気扇をはじめとするほかの換気機器を検討してください。
まとめ
全熱交換器は空気を動かしながら熱と湿度を移動させる仕組みによって、換気扇の機能と室温を一定に保つ機能を両立させています。2003年に改正された建築基準法の求める常設換気設備の条件を満たしながら、省エネルギーを実現できる換気機器です。
建物の換気や室内の空気を快適に整えることは、窓を開けられない高層建築のほか、人が集う居室に課された重要な課題です。適切な換気によって建物を安全かつ利用者にとって快適に管理する方法の1つとして、全熱交換器の導入を検討するのがよいでしょう。
しかし、全熱交換器の機能を最大限に発揮するためには、設置場所の条件に適した機器を選定しなければなりません。設置工事や定期的な点検も必要です。全熱交換器は身近で便利な換気設備ではあるものの、導入に際しては専門的な知識が求められます。
全熱交換器の設置にあたっては、豊富な知識と確かな技術を持つ専門の業者にご相談ください。