2023.06.27

蒸発とは?物質の状態変化の基本をふまえて解説

蒸発とは?物質の状態変化の基本をふまえて解説

蒸発は、液体の表面が気体になることを意味します。

たとえば鍋やヤカンに水を入れて火にかけると水蒸気が発生します。これは水という液体の表面が水蒸気という気体に変化する「蒸発」の一種です。

今回は、基本となる物質の状態変化を解説したうえで、蒸発の仕組みや活用例を紹介します。

物質の状態変化の基本

蒸発について解説する前に、基本として、物質の変化とその仕組みを理解しましょう。

物体は温度や圧力により、固体・液体・気体のいずれかに変化します。変化する条件は物質ごとに異なりますが、いずれかの三態を持つことは変わりません。

状態変化は、物質を構成する原子や分子により引き起こされています。原子や分子の結びつきが強いと、固体や液体へ変化し、結びつきが緩むと液体または気体へ変化するのです。このとき、原子や分子の動きにより、エネルギーが生み出されます。

蒸発も物質の状態変化のひとつです。水だけでなくさまざまな物質で発生する現象で、生活の中はもちろん、多くの場面でも活用されています。

物質の状態変化を指す名称

状態変化はそれぞれ名称がついており、蒸発もそのうちのひとつです。

  • 固体から液体に変化する……融解
  • 液体から気体に変化する……気化
  • 気体から液体に変化する……凝縮
  • 液体から固体に変化する……凝固
  • 液体になる過程を挟まず固体または気体になる……昇華

蒸発はこれらの現象のうち、「気化」に当たる現象です。気化は複数の現象があり、それぞれ区別されています。

また、物質は変化する温度がそれぞれ一定です。

  • 融解・凝固する温度……融点(凝固点)
  • 気化・凝縮する温度……沸点(凝縮点)
  • 昇華する温度……昇華点

たとえば、氷は0℃以上になると融解して水になりますが、鉄は溶けません。鉄を融解させるには、融点である1,538℃まで温める必要があります。このように、同じ現象でも融点が異なれば発生する条件は大きく変わるのです。

状態変化による質量や体積の違い

次に、状態変化による質量や体積の違いを確認しましょう。

まずは質量です。物体の質量は、状態変化が起きても変わりません。コップの中にある氷が解けても水が溢れないのは、このためです。

一方、体積は大きく変化します。物質の体積は、固体になると最も小さく、気体になると最も大きくなるのが基本です。ただし、例外もあります。それが水です。

水は、気化するときだけでなく、固体、つまり氷になるときも体積が大きくなります。物質は同じ重さで体積が異なる場合、体積が大きい方が軽くなるため、氷は水の中に入れても浮いてしまうのです。

蒸発とは

蒸発は、沸点以下の液体の表面にある原子または分子が、周囲のエネルギーを吸収して気体になる現象です。蒸発すると原子や分子の動きにより、圧力が生まれます。この圧力が、蒸気圧です。

通常、空気が循環していれば液体はどんどん蒸発して最終的にはすべて気体になります。しかし、室内のように空間が密閉されているとそうはいきません。いつかは蒸発できない状態、気液平衡を迎えます。こうなると、液体は蒸発できません。

蒸発速度は液体の温度が高く、表面張力が低いほど高まるようになっています。寒い日にヒーターのある部屋の窓が結露していることがありますが、これは外気出窓周辺の空気が冷やされ、水蒸気として存在できなくなった水分が液体に戻ったために起きる現象です。

このエネルギー移動の仕組みは昔から活用されていました。暑い時期になると打ち水をしますが、これは水が蒸発するとき熱エネルギーを奪うことで、周囲の温度が下がるためです。この仕組みを、気化冷却といいます。

仕組み自体を知っているわけではありませんが、昔の人は経験からこの現象を知っていました。現在では、打ち水のような生活の知恵としてだけでなく、さまざまなテクノロジーで蒸発の仕組みが利用されています。

蒸発とよく似ている現象とその違い

蒸発とよく似ている現象に、沸騰があります。沸騰は、液体を加熱したときに発生する蒸気圧が、液体の表面にかかっている大気圧よりも大きくなったときに発生します。液体の内側が気化する現象です。

通常、液体の中には気泡があります。液体の中の気泡は、内側は液体の蒸気圧に、外側は大気圧がそれぞれかかっている状態です。蒸気圧よりも大気圧が大きければ、気泡はすぐにつぶされてしまいます。

しかし、蒸気圧の方が勝っていると、気泡はそのまま液体の中に存在できるのです。また、気体は液体よりも密度が小さいため、液体の表面から大気中へ放出されます。結果、液体の内側が気化するのです。

一方、蒸発は、液体の表面にある原子や分子が気化する現象であり、液体を温めなくても発生します。どちらも液体が気化する現象ですが、仕組みや発生する場所が異なる別の現象です。

関連ページ:気化と蒸発の違いは?メカニズムや活用場面を解説

蒸発の身近な例

蒸発は身近な現象です。普段の生活では、洗濯物が乾く過程で確認できます。洗濯した後の衣類は、脱水しても濡れています。これは衣類の繊維内に、水分が液体の状態で残っているためです。

脱水後干されることで、繊維内で水が流れながら水蒸気に変化します。結果、衣類が乾いた状態になるのです。なお、湿度が高い状態だと洗濯物がよく乾かないのは、すでに大気中に水分が大量にあるため、すぐに気液平衡を迎えてしまうことが関係しています。

気温が高く、湿度が低いと洗濯物がよく乾くのは、蒸発スピードを高める条件と、空中に水分が蒸発しやすい条件が両方とも満たされているためです。

蒸発の仕組みを利用したシステム

蒸発による熱を奪う仕組みは、打ち水をはじめとしたさまざまな場所で活用されています。代表的なのが、エアコンやクーラー、ラジエーターなどです。

エアコンは、それぞれに熱交換器が搭載された室内機と室外機、両者をつなぐパイプの中に冷媒ガスを通した構造になっています。冷媒ガスが熱交換器を通して熱を吸収または放出することで、室内の温度を調節する仕組みです。冷媒ガスは「ガス」と呼ばれていますが、室内機と室外機を循環する過程で気体と液体に変化します。この変化を利用して温度調節をしているのです。

関連ページ:熱交換器が活躍!エアコンの冷暖房の仕組み

ラジエーターはもっと簡単な仕組みで、車が走行するとラジエーターに風が当たり、内部の冷却水が冷やされます。冷やされた冷却水はホースを通り、エンジン内水路を流れることで、エンジンを冷やす仕組みです。エアコンとは少々違いますが、液体が熱を奪って蒸発する仕組みを利用している点は同じです。

このほかにも、さまざまな場所で気化冷却の仕組みは活用されています。

まとめ

蒸発は、状態変化のひとつであり、熱を奪う仕組みとして昔から利用されていました。

同じ気化現象に沸騰があります。しかし蒸発と沸騰は発生する条件や仕組みが異なり、別の現象だと考えることができるでしょう。

身近な現象では、洗濯物が乾く過程、ヤカンを火にかけて水蒸気が発生する過程で観察可能です。またエアコンやクーラーなどが部屋を冷やす仕組みにも活用されています。

 

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