蒸気ドレンとは?除去と回収がなぜ重要なのか
蒸気は身近な熱エネルギーの1つであり、工場、旅館・ホテル、病院など産業・公共施設の大半で様々な目的で利用されています。この蒸気利用において極めて重要なのが、蒸気ドレンの除去と回収と言われています。
この記事では、蒸気と蒸気ドレンの基礎を詳しく解説します。
目次
蒸気とは
蒸気とは、水の沸騰により発生する無味・無臭・無色の気体のことです。その状態により「飽和蒸気」と「過熱蒸気」に分かれます。
水を沸点まで加熱する熱エネルギーを「顕熱」、沸騰した水を蒸気に変える熱エネルギーを「潜熱」と言います。蒸気を利用するためには蒸気を連続発生させなければならないので、潜熱が不可欠になります。
飽和蒸気とは
飽和蒸気とは、ボイラーで水を加熱した際、水と蒸気が平衡状態になっている時の気体のことです。
水を加熱し続けると水温が上昇し、やがて沸騰します。水が沸騰すると水温の上昇が止まります。この状態の水を「飽和水」と言い、この状態の温度が「沸点」になります。飽和水を加熱し続けても水温は上昇せず、水が沸騰し続けます。この沸騰で発生する気体が「飽和蒸気」になります。飽和水と飽和蒸気は加熱する水がなくなるまで発生し続けます。
飽和蒸気の状態は、さらに「湿り飽和蒸気」と「乾き飽和蒸気」に分かれます。水の蒸発で発生した蒸気は、霧状の飽和水を含んでいます。この蒸気が「湿り飽和蒸気」になります。この湿り飽和蒸気をさらに加熱し、蒸気中の飽和水を完全に蒸発させた蒸気が乾き飽和蒸気になります。
飽和蒸気は産業・公共施設において「加熱、加湿、乾燥、焼成、濃縮、滅菌・殺菌、洗浄」など幅広い用途で利用されています。このため、単に「蒸気」と言う場合は飽和蒸気を指しています。
過熱蒸気とは
過熱蒸気とは、乾き飽和蒸気をさらに加熱した、沸点より温度が高い「高温蒸気」のことです。例えば常圧(大気圧と同等の圧力)で加熱した場合は、100℃以上の高温蒸気になります。
過熱蒸気には、以下のような特徴があります。
- 伝熱性が高い……熱風より単位面積当たりの熱容量が大きい
- 乾燥力が強い……熱風の2―4倍の乾燥力がある
- 常圧下で対象物を高温処理できる……高圧用の特殊な配管や圧力容器が不要
- 低酸素状態で対象物を高温処理できる…過熱蒸気は水の分子(H2O)が存在しない高温気体なので対象物が酸化しない、高温処理中の対象物の燃焼・爆発の危険性がほとんどない
- 蒸気ドレンが発生しない……過熱蒸気は多少の温度低下では凝縮しないので蒸気ドレンが発生せず、「蒸気ハンマー(スチームハンマー、ウォーターハンマーとも呼ばれる)現象」による配管破損の恐れがない
このため、加熱処理の熱源として従来から利用されてきた熱風に替わる高機能な熱源として、近年は金型洗浄、アルミニウム溶解、有機廃棄物の減容・炭化、医療器具・食品容器の消毒・滅菌などに利用されています。
蒸気ドレンとは
蒸気ドレンとは、蒸気配送途中の蒸気配送管からの放熱による蒸気の温度低下で、飽和蒸気の一部が凝縮して水に戻った「復水」のことです。
蒸気ドレンを放置すると、以下のような現象の原因となります。
- 時間の経過と共に配送管の底に蒸気ドレンが溜まり、その上を高速で流れる蒸気との摩擦で配送管が振動する「蒸気ハンマー現象」により、配送管破損を引き起こす
- 配送中の蒸気の一部が凝縮して蒸気ドレンとなることにより蒸気熱量が低下し、「質の悪い蒸気(ぬるい蒸気)」しか配送できない
これらは蒸気ドレンが「蒸気の曲者」と呼ばれるゆえんです。したがって飽和蒸気の配送においては、蒸気ドレンの除去と回収が不可欠になります。
スチームトラップの役割
蒸気ドレンの除去と回収には「スチームトラップ」を用います。
これは蒸気ドレンの除去と回収を目的に配送管に取り付ける自動弁で、次の2つの役割を持っており、蒸気を有効活用する要ともなっています。
(1)蒸気ドレンの除去
- 蒸気熱量の低下防止……蒸気ドレンの除去により、高温蒸気を絶え間なく利用先へ配送する
- 蒸気ハンマー現象による配送管の破損防止……蒸気ドレンの除去により、蒸気ハンマー現象を防ぐ
- 蒸気適正流量の確保……蒸気ドレンの除去により、配送管の蒸気流量低下を防ぐ
(2)空気の排出
- 蒸気配送の確保……初期空気の排出によりスムーズな蒸気配送を確保する
- 熱伝導率の低下防止……蒸気に含まれている溶存空気による熱伝導率の低下を防ぐ
スチームトラップの種類
スチームトラップは、自動弁の仕組みにより次の3種類があります。
(1)メカニカルトラップ
蒸気と蒸気ドレンの比重差を利用し、フロートの浮力で弁を開閉する仕組みです。弁に密閉した球形フロートと、非密閉のバケットを用いる方法があります。前者を「フロート式」、後者を「バケット式」と呼んでいます。フロート式は、蒸気ドレンの流入によりフロートが浮上して開弁する仕組みで、バケット式は蒸気ドレンの流入によりバケットが沈下して開弁する仕組みです。
(2)サーモスタティックトラップ
蒸気と蒸気ドレンの温度差を利用し、感温体の膨張・収縮力で弁を開閉する仕組みです。感温体は水とアルコールの混合液を封入した金属製カプセル、バイメタル、ワックスなどが用いられます。蒸気ドレンは発生時こそ飽和蒸気温度ですが、その後は放熱に伴い温度が低下します。このためサーモスタティックトラップにおいては、蒸気ドレン温度が飽和蒸気温度に対してどの程度低下したときに開弁するかは、設計時に設定します。
(3)サーモダイナミックトラップ
蒸気と蒸気ドレンの流速の違いから生じる流体力学的特性を利用して弁を開閉する仕組みです。この中で最も代表的な「ディスク式」は、円盤形のディスク(金属板)上面に変圧室と呼ぶ空間を設け、その反対側のディスク下面で流体圧力を受ける構造になっています。この構造により、蒸気ドレンを除去する過程で変圧室が蒸気ドレンとフラッシュ蒸気で満たされ、その圧力がディスク下面を流れる蒸気圧力より強い時は閉弁します。逆に変圧室の蒸気が凝縮してその圧力がディスク下面を流れる蒸気圧力より弱い時は開弁します。
蒸気ドレンの回収法
スチームトラップで除去した蒸気ドレンは回収し、再利用します。その目的は燃費の削減と水の節減にあります。蒸気ドレンは顕熱を帯びているので、ボイラーの補給水に蒸気ドレンを混ぜることで、水の沸騰時間短縮と沸騰に熱エネルギー要するボイラー補給水の節減ができるからです。
またスチームトラップで蒸気ドレンを除去する際に湯気が発生します。この湯気は高温のドレンが常圧下で沸騰した蒸気で、「フラッシュ蒸気」と呼ばれ、スチームトラップにより蒸気ドレンと一緒に除去されます。
その際、蒸気ドレンのみを回収する方式を「オープン回収方式」、蒸気ドレンとフラッシュ蒸気を一緒に回収する方式を「クローズド回収方式」と呼び、それぞれ次の違いがあります。
オープン回収方式
常圧の蒸気ドレンは通常の配送管を使えるので、配管設計が容易で設備投資も比較的少額で済みます。
ただしオープン回収方式の場合は、蒸気配送管からの放熱量が高いので、省エネ効果は限定的になります。
クローズド回収方式
フラッシュ蒸気と一緒に回収した常圧の蒸気ドレンは、ポンプで加圧してボイラーに補給水します。このため常圧の蒸気ドレンと、加圧するボイラーの圧力と、ポンプの圧力を調節するボイラー・ポンプ・配送管の設計が複雑になり、設備投資も高額化します。
反面、オープン回収方式に比べ蒸気配送管からの放熱量が低いので、省エネ効果が大きくなります。
まとめ
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究資料によれば、日本のエネルギー供給過程で一次エネルギーの約60%が利用されず、廃熱(未利用熱)として大気中に放出されています。一次エネルギーの40%しか有効活用されていない計算です。
参考:未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発 | 事業 | NEDO
こうした現状から、蒸気ドレンの除去と回収は、廃熱再利用技術促進面でも熱エネルギー関係者に注目されているようです。その意味で全国各地の産業・公共施設で実施されている蒸気ドレンの除去と回収は、「熱の3R(Reduce、Reuse、Recycle)の先行的モデルとも言えるでしょう。
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