伝熱係数とは?熱伝導率との違いや計算方法についても解説
伝熱係数は、固体と流体の温度差によって生まれる熱の移動量を示す数値です。伝熱形態の3つのうち、主に対流伝熱に適用されます。
熱交換器や冷却装置などの設計において、伝熱係数は非常に重要なポイントです。なぜなら高温から低温への熱移動量は、装置の効率や性能を左右するためです。
伝熱係数を計算するときは、熱伝達率と熱伝導率の違いに気をつけましょう。熱伝導率は固体内部の熱の伝わりやすさを示すため、熱伝達率とは計算の仕方が異なります。
今回の記事では、伝熱係数の概要と測定、計算方法について解説しています。
目次
伝熱係数とは
伝熱係数とは、固体と流体の温度差によって生じる熱の移動量を示す数値で、主に対流伝熱に適用されます。対流伝熱は以下の4つです。
対流伝熱の種類 | 特徴 |
強制対流伝熱 | 同じ状態の流体を強制的に流して熱を伝える |
自然対流伝熱 | 同じ状態の流体が流れて熱を伝える |
凝縮伝熱 | 気体から液体に変わるときに熱を伝える |
沸騰伝熱 | 液体から気体に変化するときに熱を奪う |
熱伝達率はhまたはαで示し、単位はW/(m2・K)、分母は面積です。単位の意味は、1平方メートルの板に1℃の温度差があるときの1秒間に流れる熱量となります。
ただし、係数は物質の種類や形状、温度差で変化します。
熱伝導率との違い
熱伝導率が示すのは、固体内部での熱の伝わりやすさです。熱の伝わりやすさを決めるのは、その物体が持つ固有の性質となります。
熱伝導率の単位はW/m・K、計算式ではλ(ラムダ)で表します。単位の意味は、厚さ1mで面積が1平方メートルの板の両端に1℃の温度差があるとき、板を通して1秒間に流れる熱量です。
関連ページ:アルミの熱伝導率は?アルミ製熱交換器の特徴を解説
一般的な室温での熱伝導率の定義は以下のとおりです。
物質 | 熱伝導率 |
銅 | 398 |
アルミ | 236 |
水 | 0.6 |
空気 | 0.024 |
数値が低いほど、熱が伝わりにくくなります。建物の断熱性を高めるために2重サッシが使われているのは、空気の熱伝導率がもっとも低いためです。
伝熱係数の計算の仕方
伝熱係数を計算するときは、伝導伝熱と対流伝熱で異なります。それぞれの計算の仕方を簡単にまとめました。
伝熱の形態 | 計算の仕方 |
伝導伝熱(熱伝導率) | フーリエの法則に基づく |
対流伝熱(熱伝達率) | ニュートンの冷却法則に基づく |
伝導伝熱の伝熱係数は、フーリエの法則に基づいて計算されます。
Q=-kA(dT/dx) |
Qは熱流束、K(λを使うこともある)は熱伝導度を示します。
Aが示すのは面積、dTは温度、dxは物質の厚みです。
フーリエの法則は、熱流束が温度勾配(dT/dx)に比例すると仮定しています。温度勾配とは、物体や空間の温度が時間経過による影響がない状態での変化率です。
Kがマイナスなのは、温度が高いところから低いところへ移動するのを表すためです。つまり温度勾配とは逆の方向へ熱が移動することを示します。
対流伝熱の伝熱係数は、ニュートンの冷却法則にのっとって計算されます。
Q=αA(Tw-Ta) |
Qは熱移動量、αは熱伝達率を示します。Aが示すのは熱伝達面積、Twは物体表面の温度、Taは流体の温度です。物体から流体への熱移動量(Q)は、温度差と物体の表面積に比例します。
伝熱装置の熱移動量は総括熱伝達係数(U値)で計算する
熱交換器を始めとした伝熱装置における伝熱係数を計算するときは、総括熱伝達係数(U値)で算出します。総括熱伝達係数は、熱貫流率ともいいます。
総括熱伝達係数は、伝導伝熱と対流伝熱の数値を複合して計算されます。U値の単位はw/m2kかJ/m2Kです。
熱交換器の内部で3つの熱移動が発生しているときの状態を、以下にまとめました。
伝熱の形態 | 熱移動が発生する場所 |
対流伝熱 | 高温の流体と固体壁の表面 |
伝導伝熱 | 固体壁内 |
対流伝熱 | 低温の流体と固体壁の表面 |
3つの熱移動が発生しているときの計算式は以下のとおりです。
Q=UA(TH-TL) |
Qは伝熱量(W)、Uは総括熱伝達係数を示します。Aは面積を示し、その単位はm2です。高温の流体の温度を示すのはTH、低温の流体の温度はTLで表します。
なお、従来の総括熱伝達係数の記号は温度を示す「K」でしたが、2022年に改正された省エネ法に基づいて「U」に改められました。
工業における伝熱係数の活用シーン
伝熱係数は、機器やパーツの設計において重要な指標です。算出することで、熱伝達および熱伝導の効率や性能が明確になります。
主に以下の3つの分野で伝熱係数が活用されています。
- 伝熱装置
- 金属加工
- 燃焼エンジン
伝熱装置として挙げられるのは熱交換器と冷却装置です。流体を加熱または冷却するとき、より効率よく熱を伝えるポイントとして、機器の材料選定や流体の流れ方などがあります。
関連ページ:熱交換器の原理は?どのように熱を交換するのか
機器の材料を適切に選定すれば、熱源の熱を排出して機器の過熱を防げます。また、流体の流れを不規則に乱れさせると、機器の壁面にスケールが付着しにくくなり熱が移動しやすくなります。
たとえば、水にお湯をそそいでスプーンでかき混ぜたとき、より速くあたたまるのは乱流によって液体が混ざり合うためです。
金属加工では熱処理や鋳造、鍛造などの加工に伝熱係数が使われます。材料の品質や性能を一定の水準に保つには、均一な温度分布がポイントです。固体の熱伝導性を考慮するために、伝熱係数を算出します。
燃焼エンジンで伝熱係数が使われるのは、エンジンの冷却や排ガスの処理を適切におこなうためです。自動車や航空機のエンジンは、熱の効率的な伝達が求められます。また、ブレーキの冷却システムでも活用されています。
関連ページ:熱の伝わり方は?基本を解説!
伝熱係数を活用する業界
伝熱係数を活用するその他の業界は、主に以下の3つです。
- 建設業
- 家電製造業
- 医療機器製造業
建設業では、断熱材や熱効率を評価するときに伝熱係数が使われます。断熱性能の向上には、壁や屋根の材料選定が重要なためです。快適に暮らせる住居を作るうえで、伝熱係数の算出は欠かせません。
また、家電製品として代表的な冷蔵庫、エアコンなどの効率的な動作や冷却性能の向上にも寄与しています。
関連ページ:冷蔵庫が冷える仕組みとは?ヒートポンプの構造や冷却方式も解説
医療分野では、医療機器や薬剤の設計において伝熱係数が使われます。具体例として挙げられるのは、体内に挿入する医療機器の材料選定や、薬剤の放熱特性の評価です。
まとめ
伝熱係数は、流体と固体の間で起こる熱エネルギーの移動量を示します。
伝熱係数を算出することで、熱伝達の効率や性能が明確になります。ただし、熱伝達率と熱伝導率を混同しないようにしてください。
伝熱係数は工業や建設業などさまざまな業界で活用され、業務の効率化やコスト削減に大きく貢献しています。
熱伝達システムの設計や評価を正しくおこなううえで、伝熱係数は重要な指標です。
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