2025.01.29

潜熱とは?自然現象から工場での活用例を解説

潜熱とは?自然現象から工場での活用例を解説

私たちの身の回りで起こるさまざまな現象や、産業でのエネルギー利用には、目には見えない熱の移動が関わっています。その中でも潜熱は、物質が状態を変える際に吸収・放出される重要なものです。

例えば、雲ができる仕組みや台風の発達、さらには工場の昇温システムや貯蔵技術にも関わっています。そこで、基本概念と、自然現象や工業プロセスにおける活用例を解説します。

潜熱とは?

潜熱とは、物質が一定の温度を保ちながら状態変化(温度変化によって固体・液体・気体と変わること)する際に吸収または放出されるエネルギーのことです。これは、分子間の結合を変化させるために使われ、物質の温度自体を変えることはありません。

また、潜熱は役割によって、呼び方が変わります。例えば、固体から液体へ変わるときは溶解熱と呼び、液体から気体への変化を生じさせるときには蒸発熱といいます。

自然現象にみられる潜熱

ここでは、潜熱が自然現象とどう関わりがあるのかについて、身近な例をとりあげ解説します。主な自然現象は以下のとおりです。

  • 降水
  • 熱帯低気圧
  • 気候調節
  • 雪の昇華
  • 豪雨
  • 気温上昇
  • 海水の蒸発

降水

雲から雨や雪が降ってくる事象が降水です。大気中の水蒸気が凝縮して水滴になるとき、潜熱が放出します。

この放出が周囲の空気をあたため、雲の形成を促進します。さらに、凝縮が進むことで水滴は成長し、最終的には雨や雪などの降水となって地上に降り注ぎます。

熱帯低気圧

高温地帯にある海の上空でつくられる低気圧が熱帯低気圧です。これも潜熱と深い関わりがあります。

熱帯低気圧は海洋上で発達してハリケーンや台風になりますが、この仕組みはあたたかい海面から大気への潜熱の移動によって温度を増すことで生じます。このように、熱帯低気圧の威力を強化する際に重要な役割があります。

気候調節

水は状態変化を起こすのに高いエネルギーが必要です。このことを「潜熱容量が高い」といいます。水は高い潜熱容量を持っており、これはつまり、大量のエネルギーの温度を変えずに蓄えたり、移動させたりすることができるということです。

この性質により、海洋は大量のエネルギーを吸収・蓄積し、沿岸地域の温度を穏やかにし、地球全体の気候を安定化させる役割を果たしています。このように、地球上の気候が安定した状態で保たれるためにも役立っています。

雪の昇華

雪が固体から直接、気体に変わっていく事象が雪の昇華です。これにも関わっています。一般的に雪がとけるのは周囲の気温が高くなったときです。この場合は、雪が水になります。

しかし、実は周囲の気温が低くても、雪は徐々に減っています。周囲の温度を吸収しながら水ではなく、気体に変化していくことがあり、そのとき吸収されるエネルギーが潜熱です。

ちなみに、周囲の気温が低い状態で雪が気体になり、量が減っているにもかかわらず、雪が積もることがあります。これは、昇華する以上に雪がたくさん降るためです。

豪雨

豪雨は、大気中の水蒸気が凝縮し大量の雨が降る際に発生する現象です。この過程で潜熱が放出され、周囲の空気をあたため、大気の状態を不安定化させます。

あたためられた空気は上昇し、周囲の空気を引き込み、更なる水蒸気の凝縮を促すことで、雨雲が発達。これが豪雨を引き起こすメカニズムです。このような大気の不安定化や局地的な豪雨の発生に大きく関わっています。

気温上昇

気温上昇は、大気中の水蒸気量が増加することで起きる現象です。水蒸気は、熱を吸収して大気中にある温室効果ガスとしての性質を持ち、その量が増加すると地球全体の温度がより多く閉じ込められ、地球温暖化が加速します。

この温暖化は蒸発を促し、大気中の水蒸気量をさらに増加させるというループを生み出しその結果、異常気象を助長します。このメカニズムから分かるとおり、地球の気温上昇にも深く関わっています。

海水の蒸発

海水の蒸発にも関わっています。海水は蒸発しますが、その際には大量の潜熱が吸収されます。特に、高温地帯の海域では蒸発が活発におこなわれ、大気中に大量の水蒸気を放出し、結果としてそれが降水パターンや気候変動に影響を与えます。

水蒸気になる量が多ければ、高温地帯ではスコールやモンスーン(季節風による豪雨)が起こります。

工場における潜熱の利用例

多くの製造業で潜熱は、蒸気加熱や電力貯蔵などに活用されています。そこで、工場においてどう関わっているか解説しましょう。

蒸気を用いた熱システム

多くの製造業では、原材料や製品を昇温する工程で蒸気が利用されています。

例えば、熱交換器では、蒸気が凝縮する際に放出する潜熱を、さまざまな昇温に利用することが可能です。実際、製紙、化学、石油精製、食品加工などの産業では、蒸気による蒸気を用いたシステムが、製品を昇温するのに必要な熱量の約30%を担っているとされています。

このように、蒸気を用いたシステムは、工場のエネルギー利用効率を高めるのに役立っています。

相変化材料(PCM

固体から液体などの状態変化が起こる際に、大量の熱を吸収・放出できる「熱エネルギー貯蔵」という技術があります。

例えば、相変化材料(PCM)は融解時に大量の熱を吸収し、凝固時にそれを放出するという特性があります。この特性により、温度を一定に保ちながら熱を貯蔵することが可能です。この技術は、建物の温度管理をしたいなどの用途に有効で、特にPCMは安価で安全なため注目されています。

太陽熱発電所(CSP

PCMとは別の電力貯蔵の技術として、太陽熱発電所(CSP)も挙げられます。太陽熱発電所とは、太陽の光を集めて高温の熱エネルギーをつくり、その熱で蒸気を発生させて発電するシステムのことです。この技術には、潜熱を利用したものが活用されています。

熱化学エネルギー貯蔵(TCES

熱化学エネルギー貯蔵(TCES)も、電力貯蔵の技術の1つです。これは、化学物質が分解・反応することでエネルギーを蓄え、再結合するときに取り出すというものです。熱を化学結合に変換して長期間貯蔵できるため、将来の電力貯蔵技術として現在も研究が続けられています。

低温電力貯蔵(LTES

食品保冷・医療・発電などの分野では、低温電力貯蔵の技術が用いられています。低温電力貯蔵とは、0℃以下の低温環境を利用して電力を蓄え、必要に応じて放出する技術のことです。

この技術では、電気を使って空気を冷却・液化し、それを貯蔵します。この貯蔵されたものを液体空気と呼びますが、この液体空気は体積が小さいため、大量の電力をコンパクトに貯蔵できます。

必要な際には、液化空気を気化させて発電します。この気化させる際には潜熱が利用されており、効率的に電力を取り出すことに役立っています。また、低温電力貯蔵の技術は、余剰電力を貯蔵し、必要なときに供給することができるため、電力の安定化につながっています。

HVAC(暖房、換気、空調)システム

暖房(Heating)、換気(Ventilation)、空調(Air Conditioning) を統合したシステムで、建物内の温度、湿度、空気の質を調整する設備をHVACシステムと呼びます。HVACシステムは、潜熱を利用して空気の湿度を調整し、快適な室内環境を実現しています。

具体的な仕組みとしては、冷却コイルにおいて、空気中の水蒸気が凝縮して水になる際に潜熱が放出され、これを取り除くことで空気を冷却・除湿します。また、もう1つのコイルでは、冷却された空気を再び昇温して調整します。このように、HVACシステムで、温度や湿度をコントロールする際に重要な役割を果たしています。

まとめ

潜熱は、自然界の気候調整から産業効率化まで、幅広い分野で重要な役割を担っています。降水や熱帯低気圧、海水の蒸発などの自然現象だけでなく、工場の昇温システムや先進的な電力貯蔵技術にも応用されています。これからの持続可能な電力利用を考えるうえでも欠かせません。
 

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