2024.02.01

なぜステンレスは孔食する?腐食の種類と防止方法を解説

なぜステンレスは孔食する?腐食の種類と防止方法を解説

錆びに強いステンレスは、熱交換器にもよく使われる金属であり、家庭内から大型設備までさまざまな場所で活用されています。便利ですが、いつまでも錆びないというわけではなく、ある程度使い続けていると孔食が発生することもあります。

ステンレスの性質を安全かつ最大限に活用するには、そもそものステンレスの構造や、錆が発生する理由を知る必要があります。

本記事では、ステンレスが孔食・腐食する背景と防止方法を解説します。

ステンレスはなぜ腐食する?

ステンレスは鋼の一種で、鉄を主成分として、クロムやニッケルなどを含んだ合金です。一般的なステンレス鋼は10.5%以上のクロムが含まれた合金鋼をさします。

さびにくく丈夫で軽いことから、シンクや調理器具などの身近なものから大規模工場やそのための設備まで、さまざまな場所で活用されています。

ステンレスが腐食しにくい理由

ステンレスはそのほとんどが鉄でできていますが、腐食による錆や傷がほとんどありません。これは、合金の表面にできる不導体被膜によるものです。

そもそも金属における腐食とは、金属が使用環境において電気化学的な反応により、表面などで消耗が起こる現象のことです。水と酸素がある環境下では、鉄は鉄イオンとなり、電子を放出しつつ水の中に移動します。

このとき、液体のpHにより以下のような反応が起こります。

液体のpH 反応の主体 水素イオンの反応
pHが低い 水素イオン 鉄イオンが放出した電子を受け取って水素ガスになる
pHが中性に近い 酸素 鉄イオンが放出した電子を受け取り水酸化物イオンになる

 

ステンレスに水滴がついても錆びにくいのは、不導体被膜がこの鉄イオンの流出を防いでいるためです。

不導体被膜は主にクロム・酸素・水酸基が結合することで作られている、数nmほどの非常に薄い膜です。本体である鉄部分をコーティングするように発生しており、これにより錆から合金を守っています。不導体被膜は一部が除去されても酸素があればすぐ再生する性質を持っており、皮膜が残り続ける限り、ステンレスは錆びません。

ステンレスが腐食する原因

ステンレスは構造上では錆が発生しにくいとはいえ、まったく腐食が起きないわけではありません。調理器具やステンレス製の道具などが錆びているのを、見たことがある方も多いのではないでしょうか。これは主に、不導体被膜が破壊されてしまったことが原因で起こる現象です。

不導体被膜は常に発生しているわけではありません。海水・塩酸・硫酸などにさらされると皮膜が破壊されてしまうため、徐々にステンレスは錆びていきます。ステンレスの錆を予防するには、皮膜を破壊する要因にさらされないよう注意しなくてはなりません。

関連記事:ステンレスがさびる原因は?対策とさびのメカニズムについても解説

ステンレスにおける腐食の種類

一口に腐食といっても、その種類はさまざまです。ステンレスに錆が発生する原因も、種類ごとに異なります。ステンレスの錆を予防するには、金属の腐食とその発生要因について知っておかなくてはなりません。次は金属の腐食の中でも、特にステンレスに発生しがちなものについて解説します。

全面腐食

金属全体にわたって均一に腐食している状態です。弱い酸化力が発生している環境下で起こる腐食であり、屋外で発生する腐食の代表的な種類でもあります。硫酸や塩酸など、酸性溶液中でも発生しがちな腐食です。

孔食

金属の表面で局所的に発生する腐食です。ちょうど虫食いのように、点または孔状に侵食しています。日常では海岸沿いのガードレールや部品のつなぎ目などで見られます。塩化物イオンなど、ミネラルが大量にある環境下では、不導体被膜を維持するために必要なクロムなどの物質が不足します。結果、皮膜の形成がうまくいかず、浸食がすすんでいる状態です。

すきま腐食

機械などのボルト部分や溶接部分などで発生する腐食です。金属同士の隙間部分は、外部よりも酸素供給が不十分なため、酸素濃度に差が生じます。この酸素濃度の差が電気化学的な反応を起こし、腐食を発生させます。すきまを作らなければ発生しない腐食ですが、現実的には不可能です。

粒界腐食

粒界腐食はステンレスの粒界に沿って亀裂が進行する腐食です。ステンレスが熱処理や溶接により、組織が変化してしまったために発生します。ステンレスは500800℃で長期間保持すると、ステンレス内のクロムが炭素と結合して粒界に析出してしまいます。この状態だとクロム濃度が低く、不導体被膜を十分に形成できません。結果、クロムが少ない部分に集中して腐食が発生します。これまで解説した腐食とは異なり、加工や施工中に発生しがちな腐食です。

異種金属接触腐食

金属は異なる種類同士のものが電気を通す液体内で接触すると、片方がプラス極・もう片方がマイナス極になることで、電池を形成します。電気はマイナス極からプラス極になれますが、このとき金属を構成する元素もイオン化し、溶液内に流れ込んでしまいます。結果、腐食が発生するわけです。ガルバニック腐食・電食とも呼ばれており、乾電池などはこの現象を利用して電気を生み出しています。

関連記事:金属製の器具を洗浄する際には腐食に注意

ステンレスにおける腐食の防止方法

孔食をはじめとする腐食からステンレスを守るには、さまざまな対策を講じなくてはなりません。ここでは代表的な腐食対策を解説します。

環境に合ったステンレスを選ぶ

一口にステンレスといっても、さまざまな種類があります。腐食耐性も同様です。ステンレスを使う場合は、施工や製造したものが置かれる環境を考慮した鋼材を選びましょう。

たとえば、炭素や窒素を配合したステンレスは、耐孔食・耐すきま腐食性がほかの鋼材よりも高い傾向にあります。ニオブやチタンを配合したものは、溶接部の耐食性を強化します。

腐食は完全には防げない現象ではありますが、環境に合った材質を選べばある程度発生を抑えられます。ステンレスを選ぶときは、どんな材質なら錆を防げるかよく考えたうえで選びましょう。

錆が発生しにくい設計や配置に気を付ける

腐食を防ぐには、材質だけでなく設計や配置に注意するのも有効です。たとえば、ボルトや溶接が必要な部分を最低限に抑えれば、すきま腐食や粒界腐食の予防に役立ちます。ボルトや溶接部分を、特定の腐食に強いステンレスに変更するのも有効です。

工場設備や機械に使用する場合、腐食の原因になるような環境での使用を禁止する・腐食しやすい箇所を交換しやすいような部品にするなど、運用面で対応することもできます。

コーティング剤やカバーの利用

孔食などの腐食の一部は原因となる成分に触れないようにすれば、ある程度発生を抑えられます。施工や設置時に樹脂コーティングやカバーをかけ、その状態で運用するのもよい方法です。

実際に活用されている方法としては、テフロンやガラスによるコーティングや、樹脂製のカバーを被せるなどの方法が採用されています。加工はステンレス部分全体に加工するものから、溶接部など部位ごとにおこなうものまで、施工や設備によりさまざまです。

ステンレスを使った施工や設計をおこなう際は、材質選びや設計だけでなく必要に応じてコーティング剤やカバーの利用も検討しましょう。

まとめ

ステンレスは錆に強い材質ですが、錆から鉄部分を守っている皮膜が失われてしまうと腐食が発生します。孔食などの腐食を発生させないためには、施工や設計の時点から注意しなくてはなりません。

どんなに気を付けてもメンテナンスを怠れば腐食は発生してしまいます。施工や設置時だけでなく、運用中も注意することが大切です。

 

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