気化と蒸発の違いは?メカニズムや活用場面を解説
気化は、液体に含まれる水分子の集まり方が変化して起こる現象です。水分子の動きが活発になればなるほど、液体はその形を保てなくなり気体に変化していきます。この現象を技術化することで、私たちはとても快適に暮らせるようになりました。
今回の記事では、気化と蒸発の違いや気化現象のメカニズムについて解説します。気化と蒸発の違いを知り、どのような場面で活用されているのかをみていきましょう。
目次
気化とは
気化とは、液体が気体になることです。
たとえば液体である「水」の場合、沸騰し蒸発することで「水蒸気」に変わります。これは気化現象の一種です。
気化現象のメカニズム
気化現象は、物質の水分子の集まり方が変化して起こります。物質には3つの形態があります。
- 固体
- 液体
- 気体
たとえば、水を凍らせると氷として固体になります。つまり、水分子がぎゅっと集まった状態(凝固)です。氷が溶けて水になると(融解)、水分子の動きが活発になって流体になります。さらに水が気体になる(気化)と、より水分子が激しく動くため目に見えなくなります。
つまり、液体の状態が変化するのは温度の上昇によるものです。状態が変化する温度は物質によって異なり、変化する温度は物質によって一定となります。
液体の状態変化 | 状態変化の呼称 | 状態が変化する温度 |
液体から固体へ変化 | 凝固 | 凝固点 |
固体から液体へ変化 | 融解 | 融点 |
液体から気体へ変化 | 気化 | 沸点 |
気体から液体へ変化 | 凝縮 | 凝縮点 |
固体から気体へ直接変化 | 昇華 | 昇華点 |
気体から固体へ直接変化 | 昇華 | 昇華点 |
なお「昇華」は、固体から気体へ、または気体から固体へ一気に直接変化することをさします。途中で液体に変わる場合、その変化を昇華と呼ぶことはできません。
気化と蒸発の違い
気化と蒸発の違いは、「液体の変化の仕方」です。
気化は液体が気体になる現象そのものを指し、蒸発は液体や固体の表面が気化することを意味します。つまり、蒸発は気化現象のうちの1つです。
例えば、洗い終えた食器を濡れたまま食器かごに置いたとき、食器は時間の経過とともに乾きます。このように、温度に関係なく水分が気体になる現象が蒸発です。
また、蒸発の1つに含まれる現象を揮発といいます。揮発とは、液体が常温、常圧(通常の大気圧に等しい圧力)時にのみ気化する現象です。揮発性のある液体として有名なものに、ガソリンやシンナーなどがあります。
蒸発と沸騰の違い
沸騰は液体の内部から起こる現象です。沸騰とは、液体を熱したときに液体の内部で気化現象が発生することをいいます。
鍋でお湯を沸かしたとき、下からボコボコと気泡が浮いてくるのは液体の表面にかかる圧力よりも液体が蒸気になろうとする圧力の方が大きいためです。
関連ページ:蒸発とは?物質の状態変化の基本をふまえて解説
気化と蒸発の身近な具体例
身近にある、気化と蒸発の具体的な事例を以下にまとめました。
気化
身近な気化現象として挙げられるのは以下の3つです。
- 打ち水
- 冷蔵庫の冷却
- アルコール消毒
液体が気体になるとき、周囲の熱を奪うことを気化熱といいます。
暑い時期に打ち水をすると涼しく感じるのは、地面にまいた水が蒸発するときに熱を奪うためです。また、注射を打つ前にアルコール消毒をすると、アルコールが乾くときに体温を奪います。
冷蔵庫で食材を冷やせるのは、冷媒ガスが気化熱によって庫内の熱を奪うためです。
関連ページ:冷蔵庫が冷える仕組みとは?ヒートポンプの構造や冷却方式も解説
蒸発
身近にある蒸発の例を以下に3つ挙げました。
- 洗濯物の乾燥
- コップの水の減少
- 茶碗に残ったご飯粒が乾いて固くなる
洗濯物を屋外に干してカラッと乾くのは、熱によって洗濯物が含む水分が乾くためです。コップに入れた水を放置しておくと、水の表面から蒸発して量が少なくなります。
茶碗にご飯粒が残ったまま放置するとカチカチになるのも、ご飯粒が含む水分が蒸発してなくなるためです。
このように、蒸発は周囲の温度や圧力に関係なく起こります。
気化現象を活用している業界
気化現象はさまざまな分野の業界で活用されています。ここでは3つを紹介しましょう。
工業
工業で気化現象を活用しているのは、主に以下です。
- 蒸発冷却
- 滅菌と殺菌
- 蒸発乾燥
蒸発冷却は、工業設備で発生する熱を冷却するために用いられています。発電所や商業施設のクーリングタワーは、水をシート型の熱交換器に均一に散布し、ファンで風を当てて蒸発を促進させています。
ほかに蒸発による冷却をおこなっているのは、熱交換器、ヒートポンプやターボ式冷凍機などです。
関連ページ:熱交換器の商品一覧
蒸気による設備の滅菌と殺菌をおこなうのは主に食品工場や病院です。食品工場では食品の殺菌や除菌も蒸気加熱で処理しています。蒸気加熱による殺菌や除菌は、各都道府県が定める「食品衛生施行条例」に基づきます。
蒸発による乾燥を技術化したものとして挙げられるのは、ドラムドライヤーです。食品フレークや粉末の生成、産業廃棄物の乾固に使われています。蒸気で加熱したドラムの表面に原材料を付着させ、一回転するあいだに乾燥させる仕組みです。
フリーズドライも蒸発乾燥による製法です。フリーズドライは食品中の水分を氷から蒸気へ一気に変化させる技術で、風味や栄養素を極力損なわずに常温で長期保存できます。
氷から蒸気へ一気に変化させるときに利用しているのは、昇華のメカニズムです。昇華とは、固体から気体へ一気に変化する現象です。
水は通常100℃で沸騰しますが気圧の低い場所では沸点が下がるため、食品を-30度で凍結させてから真空に近い状態にすると水分が昇華します。
つまり、すでに凍結している状態からさらに圧力を下げることで、食品中の水分が氷から蒸気に変化します。
化学
化学における気化現象の活用は、主に以下の3つです。
- 蒸留
- 化学反応における加熱
- 火力発電
蒸留とは、液体を沸騰させて気体にし、その気体を液体に戻すことです。蒸留は、複数の物質が混ざり合った液体から純度の高い液体を取り出すためにおこないます。
蒸留でできることは、海水から真水を取り出したり蒸留酒を造ったりすることです。蒸留酒の豊かな香りと高いアルコール度数は、酵母菌で発酵させて作る醸造酒を加熱してアルコール濃度を高めるためです。
ほかにも、石油からガソリンを精製するときに用いられます。化学反応における加熱は、物質(成分)を加熱することで反応を促進、進行させます。反応の促進の一例として、鉄を加熱したとしましょう。加熱された鉄は酸素と化合して酸化鉄になります。
反応の進行の例として挙げられるのは、鉄と硫黄の混合物を加熱したときです。鉄と硫黄の混合物は、加熱すると化合硫化鉄ができます。加熱するのをやめても反応が進行するのは、化合硫化鉄そのものが持つ熱でさらに混合物を化合させるためです。
火力発電は、石油や石炭を燃やして発生した熱エネルギーから電力を発生させる方法です。始めに燃料を燃やしてボイラーで水を沸騰させ、高温高圧の蒸気を発生させます。次に蒸気の力で蒸気タービンを回すと、タービンに取り付けられた発電機で電力が発生します。最後に蒸気タービンから出た蒸気は冷却されて水になり、再びボイラーに戻る仕組みです。
関連ページ:ボイラーの仕組みは?種類や取り扱いの注意点を解説
火力発電所が海に近い場所に設置されているのは、蒸気を冷却するときに大量の水が必要なためです。
医学
医学では、以下の3つで気化現象が活用されています。
- 冷凍保存
- 蒸留水
- 冷却ジェルシート
医学における冷凍保存として代表的なのは、iPS細胞から作った幹細胞の凍結保存です。CASという冷凍技術によって、再生医療に用いる移植用の細胞を長期保存できるようになりました。CASはパルス振動によって水分子を活性化させながら凍結させる技術です。
参考:細胞の損傷を抑えた冷凍法とは? 医療分野でも活用される冷凍技術:農林水産省
注射するときに使う蒸留水とは、蒸留によって不純物が取り除かれた水のことです。注射以外にも、化粧品やアロマオイルなどに使われています。ただし、不純物が取り除かれているとはいえ、飲み水には適していません。
冷却ジェルシートは気化熱を利用しています。シートを貼り付けた部分が冷たく感じるのは、ジェルに含まれる水分が熱を吸収して蒸発するためです。ただし、冷却ジェルシートに解熱効果はありません。冷却ジェルシートの目的は、発熱による苦痛を緩和するためです。
また、患者の体を清拭(せいしき)するときに水分をしっかり拭き取るのは、皮膚に残った水分が蒸発したときに体が冷えるのを防ぐためです。
まとめ
気化と蒸発の違いは、液体の変化の仕方です。
気化は液体が気体になる現象そのものを指し、蒸発は液体や固体の表面が気化することをいいます。
打ち水やアルコール消毒などは、液体が気体になるとき周囲の熱を奪う「気化熱」という性質を利用したものです。蒸発は、周囲の温度や圧力に関係なく液体の表面が気化します。洗濯物や路上の水たまりが乾くのは、蒸発によるものです。
気化現象を活用したものとして、蒸留酒やフリーズドライ、冷却ジェルシートなどが挙げられます。
自然現象の1つである気化は、私たちの生活を支える大切な技術として活用されています。
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